スマホの画面には、

「応募する」

と書かれた赤いボタンがあった。


押すだけだった。

名前を入力して。

電話番号を入力して。

あとは送信するだけ。


それなのに、

指が動かなかった。


また期間工に戻るのか

一度、工場を辞めた。

もう戻らないと思っていた。


同じ作業の繰り返し。

夜勤。

残業。

寮生活。


朝なのか夜なのか分からなくなる生活。


もう十分だと思った。

次は違う仕事をする。

今度こそ普通に働く。


そう決めていた。


でも、

気付けばまた期間工の求人を見ていた。


トヨタ。

デンソー。

アイシン。

日産。

スバル。


給料。

満了金。

寮費無料。

赴任手当。


見慣れた言葉が並んでいる。


懐かしいとは思わなかった。


ただ、

現実的だと思った。


通帳の残高

求人を見る前に、

銀行口座を確認していた。


数字は思っていたより少なかった。


家賃。

携帯代。

食費。

返済。


働いても働いても、

出ていく金の方が早かった。


フードデリバリーもやった。

雨の日も走った。

夜中まで走った。


それでも、

生活を立て直すほどの金は残らなかった。


月に数万円を稼ぐことはできる。


でも、

数百万円の穴を埋めるには遅すぎる。


そう思った。


期間工なら何とかなる

工場の仕事が好きだったわけじゃない。


むしろ嫌いだった。


時計が進まない。

腰が痛い。

夜勤明けは眠れない。


人が辞めても、

次の日には何事もなかったようにラインが動く。


そんな場所だった。


でも期間工には、

一つだけ分かりやすいものがある。


働けば金になる。


残業をすれば増える。

夜勤をすれば手当がつく。

満了まで働けば、まとまった金が入る。


夢はない。


でも計算はできる。


今の自分に必要だったのは、

夢より計算できる収入だった。


プライドの話

応募できなかった理由は、

仕事がきついからだけじゃなかった。


また戻ることが恥ずかしかった。


一度辞めた。

もう工場には戻らないと言った。


なのに、

金がなくなったらまた期間工。


結局、

何も変わっていない気がした。


前に進むどころか、

同じ場所をぐるぐる回っている。


期間工を辞める。

金が減る。

また期間工へ戻る。


期間工ループ。


その言葉が頭に浮かんだ。


笑えなかった。


誰も見ていない

スマホを置いた。


コンビニで買った缶コーヒーは、

もうぬるくなっていた。


部屋は静かだった。


誰かに応募を見られているわけじゃない。


誰かに笑われるわけでもない。


それでも、

勝手に誰かの目を気にしていた。


正社員でもない。

資格もない。

誇れる経歴もない。


そしてまた期間工。


自分で自分を見下していた。


でも、

しばらく考えて気付いた。


そんなプライドを守ったところで、

家賃は払えない。

借金も減らない。


明日の生活は変わらない。


だったら、

一度捨てた方がいい。


プライドは、

金が貯まってから拾い直せばいい。


目標を決めた

ただ戻るだけなら、

また同じことを繰り返す。


だから今回は、

期限を決めることにした。


借金を返す。

生活防衛資金を作る。

副業を続ける。

ブログを育てる。


期間工を人生のゴールにしない。


次へ進むための資金を作る。


そう決めた。


期間工に戻るのではない。


期間工を使う。


少し言い方を変えただけかもしれない。


でも、

その言葉でようやく指が動いた。


応募する

もう一度、

スマホの画面を開く。


名前。

生年月日。

電話番号。

希望勤務地。


入力した。


最後に、

赤いボタンが出てきた。


「応募する」


押した。


画面には、

「ご応募ありがとうございます」

と表示された。


時間を見る。


求人ページを開いてから、

30分以上経っていた。


何かが変わった実感はなかった。


借金も減っていない。

仕事もまだ決まっていない。


明日から人生が好転するわけでもない。


でも、

止まっていた時間が少しだけ動いた。


そんな気がした。


期間工への応募は難しくない

実際の応募手続きは難しくない。


求人を選ぶ。

必要事項を入力する。

面接の日程を決める。


それだけだ。


難しいのは、

応募方法ではない。


「もう一度やり直す」

と決めることだった。


応募ボタンを押すだけで、

30分かかった。


でも、

あの30分がなければ、

このブログも始まっていなかったと思う。


ここから、

俺の期間工生活がもう一度始まった。


そして今回は、

前と同じ終わり方をしないつもりだった。



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