給料日まで、あと四日。
スマホに表示された口座残高は、
3,842円だった。
生活できない金額ではない。
寮費はほとんどかからない。
食料も少し残っている。
給料も予定どおり入るはずだ。
それでも、
その数字を見た瞬間に落ち着かなくなった。
同期が辞めた日の夜だった。
隣の空になったロッカーを見て、
自分もいつか工場を出るのだと考えた。
その時、手元に何が残っているのか。
急に気になって口座を確認した。
思っていたより、
金は残っていなかった。
稼いでいるはずだった
期間工になってから、
以前より給料は増えた。
夜勤手当がつく。
残業をすれば残業代も入る。
寮費が抑えられる分、
普通に一人暮らしをするより貯めやすい。
給料明細を見た時には、
これなら金を残せると思っていた。
でも実際には、
思ったほど残っていなかった。
大きな買い物をしたわけではない。
高い服も買っていない。
旅行にも行っていない。
それでも、
金は少しずつ消えていた。
小さな支出
仕事へ行く前の缶コーヒー。
休憩中のエナジードリンク。
夜勤明けのコンビニ弁当。
休みの日の外食。
一回の金額は小さい。
数百円。
多くても千円程度だった。
だから気にしていなかった。
今日くらいいい。
疲れているから仕方ない。
寮費がかからないから大丈夫。
毎回そう思っていた。
数百円では生活は壊れない。
でも、数百円を気にしなくなる習慣は、
少しずつ口座残高を減らしていった。
コンビニへ行った
夜勤明けだった。
部屋に食べるものは少しあった。
インスタントの味噌汁。
冷凍したご飯。
納豆。
それでも、
コンビニへ行った。
疲れている時は、
温めることさえ面倒になる。
弁当を買えば、
蓋を開けるだけで食べられる。
店内を歩く。
弁当。
カップ麺。
菓子パン。
飲み物。
いつもなら迷わずカゴに入れていた。
その日は、
値札が妙にはっきり見えた。
弁当、598円。
飲み物、168円。
デザート、238円。
全部買っても、
残高がすぐになくなるわけではない。
でも、
スマホに表示された3,842円を思い出した。
給料日まで、あと四日。
結局、
おにぎりを一つだけ買った。
金がないことより怖かったこと
部屋へ戻る。
電子レンジで冷凍ご飯を温めた。
納豆を開ける。
味噌汁にお湯を注ぐ。
食事としては十分だった。
コンビニ弁当を買わなくても、
困ることはなかった。
その時、
少し情けなくなった。
3,842円しかないことではない。
金が残っていない理由を、
自分で説明できなかったことが怖かった。
いくら稼いだのか。
何に使ったのか。
今月いくら残せたのか。
何も把握していなかった。
給料が入れば大丈夫。
来月から貯金する。
満了金が入ったら一気に残す。
そんなことばかり考えていた。
でも、
金額が増えただけで使い方が変わらなければ、
どれだけ稼いでも同じことを繰り返す。
ようやく気づいた。
給料日が来れば安心できる
以前は、
給料日前になると毎回同じことを考えていた。
あと四日。
あと三日。
明日。
給料日になれば、
すべて解決する気がした。
実際、
給料が入れば口座残高は増える。
安心する。
少し使う。
また安心する。
そして月末になると、
残高が減っている。
給料日を待つ生活は、
同じ場所を回っているだけだった。
金が入る。
使う。
減る。
また入るのを待つ。
このままでは、
期間工を満了しても何も残らない。
初めて支出を書き出した
ノートを一冊出した。
立派な家計簿ではない。
寮へ来た時に持ってきた、
普通の大学ノートだった。
覚えている範囲で、
今月使った金を書いた。
携帯代。
食費。
借金の返済。
コンビニ。
外食。
日用品。
正確な金額が分からないものも多かった。
それでも、
書いてみると見えてきた。
生活に必要な金より、
疲れた時に使った金の方が多かった。
仕事を頑張ったから。
夜勤を乗り切ったから。
今日は残業だったから。
自分への小さなご褒美が、
毎日のように続いていた。
一つひとつは小さい。
でも、
毎日続けば大きくなる。
貯金できなかった理由
給料が少ないからだと思っていた。
確かに、
収入が少なければ貯金は難しい。
でも期間工になった後の自分は、
以前より稼いでいた。
寮費も抑えられていた。
それでも残らない。
問題は、
余った金を貯金しようとしていたことだった。
給料が入る。
生活する。
使いたいものに使う。
月末に残っていたら貯金する。
それでは、
ほとんど残らなかった。
残るかどうかを、
その月の自分に任せていたからだ。
次の給料日から変えたこと
大きな節約はしなかった。
食事を極端に減らしたわけでもない。
コンビニへ二度と行かないと決めたわけでもない。
変えたのは三つだけだった。
給料日に先に分ける
給料が入ったら、
最初に貯金分を別の口座へ移す。
余った金を貯めるのではなく、
残った金で生活するようにした。
コンビニへ行く回数を減らす
完全にはやめなかった。
夜勤明けに何も作りたくない日もある。
ただ、
何となく入ることは減らした。
水筒と簡単な食事を準備するだけで、
使う金額はかなり変わった。
残業代を生活費に入れない
残業は毎月同じではない。
残業代が多い月の生活に慣れると、
残業が減った時に苦しくなる。
基本の給料で生活し、
残業代はできるだけ残すことにした。
最初からうまくはいかなかった
決めた翌月から、
急に貯金できる人間になったわけではない。
コンビニにも行った。
外食もした。
予定より使った月もあった。
それでも、
口座残高を見るだけだった頃よりは変わった。
使った金を書く。
残った金を見る。
次の月に少し直す。
その繰り返しだった。
貯金は、
我慢できる人だけがするものだと思っていた。
でも実際には、
何度も失敗しながら、
金を残す習慣を作ることだった。
給料日前夜
ノートを書き終えた頃には、
外が少し明るくなっていた。
口座残高は変わっていない。
3,842円。
借金も減っていない。
満了後の仕事も決まっていない。
何も解決していなかった。
それでも、
さっきまでより少しだけ落ち着いていた。
金がない理由を、
初めて自分で見つけられたからだ。
分からないものは怖い。
でも、
分かれば少しずつ変えられる。
給料日まで、あと四日。
以前なら、
ただ待っていた。
その夜は、
次の給料が入ったら最初に何をするかを決めた。
先に金を分ける。
残りで生活する。
それだけだった。
でも、
その小さな変更から、
残高は少しずつ増え始めた。
10万円。
30万円。
50万円。
そして後に、
初めて100万円を超える日が来る。
その数字を見た時、
もっと喜ぶと思っていた。
実際に感じたことは、
少し違っていた。