たまに聞かれる。

「期間工ってやっぱりきついですか?」

そのたびに困る。

きつい。

でも、何がきついのかを説明するのが難しい。


工場の仕事そのものは、正直そこまでじゃない。

もちろん楽ではない。

でも、

「人生で一番きつかった仕事ですか?」

と聞かれたら違う。

引っ越し屋の方がきつかった。

飲食店の方がきつかった。

学生時代の深夜コンビニもきつかった。


じゃあ何がきついのか。


朝じゃない時間に起きることだ。


夜勤の日。

俺は夕方4時頃に起きる。

スマホを見る。

友達からのLINE。

家族のグループチャット。

全部数時間前の話題だ。

世間はもう一日を終えようとしている。

でも俺の一日は今始まる。

この時点で少しだけ孤独になる。


作業服に着替えて寮を出る。

夕焼けが見える。

綺麗だなと思う。

でも仕事へ向かう。


工場に着く。

カードを通す。

歩く。

歩く。

歩く。

広い。

本当に広い。

工場勤務をしたことがない人は想像できないと思う。

部署によっては会社の敷地だけで数キロある。


ロッカー。

朝礼。

ラジオ体操。

そしてラインが動き始める。


最初の頃は時計ばかり見ていた。


8時12分。


次に見た。


8時17分。


5分しか経っていない。


絶望する。


新人あるあるだと思う。


今なら時計を見ない。

見ても意味がないと知っているからだ。


ラインは止まらない。

部品は流れてくる。

また来る。

また来る。

また来る。


気付く。


時間じゃない。

回数なんだ。


今日は何千回同じ動きをするんだろう。


そう考えると少し怖い。


でも人間は慣れる。

そこが面白い。


一ヶ月後。


同じ仕事をしている。

同じ場所に立っている。

同じ工具を持っている。


なのに楽になっている。


体が覚える。


慣れは恐ろしい。


半年後には新人の動きが分かる。

一年後には新人の顔を見ただけで、

「ああ、まだ一週間目だな」

と思う。


そしてある日。

同期が辞める。


これが地味に効く。


昨日まで隣のロッカーだった人がいなくなる。

理由は知らない。

聞かない。

聞けない。


ただ荷物だけが消えている。


期間工の仕事で一番きついのは、

実はこの瞬間かもしれない。


みんな通過していく。


社員になる人もいる。

辞める人もいる。

飛ぶ人もいる。


だから仲良くなりすぎない人もいる。


ここは学校じゃない。


工場だ。


夜勤明け。

朝の6時。

工場を出る。


空が明るい。


世間はこれから仕事へ行く。


俺は帰る。


コンビニに寄る。

缶コーヒーを買う。

パンを買う。

タバコを吸う人もいる。


みんな疲れた顔をしている。


寮へ帰る。

シャワーを浴びる。

ベッドへ倒れる。


ここからが本番だった。


眠れない。


工場はきつい。

そう思っていた。

違った。


本当にきついのは昼寝だった。


外が明るい。

隣の部屋のドアが閉まる。

掃除機の音。

宅配便。

小学生の声。


眠らなきゃいけない。


でも眠れない。


時計を見る。

昼の12時。


出勤は夕方5時。


焦る。


焦ると余計眠れない。


これを何度も繰り返した。


だから今、

「期間工ってきついですか?」

と聞かれたら、

こう答える。


仕事は慣れる。


でも、

夜勤の生活だけは最後まで慣れなかった。


それでも続けた理由は単純だ。


金だった。


寮があった。


貯金できた。


人生を立て直せた。


だから、

もし今の生活に行き詰まっているなら、

期間工は悪い選択じゃない。


ただし。


求人サイトの広告みたいに、

楽に稼げる仕事だと思って行くと後悔する。


朝6時の工場の門を一度くぐってから決めても遅くない。


その景色を見れば、

自分に向いているかどうか、

たぶん分かる。