朝礼の前だった。
ロッカーを開けようとして気付く。
隣が空いている。
昨日まで荷物があった。
作業着があった。
安全靴があった。
でも今日は何もない。
最初は休みだと思った。
体調不良かもしれない。
有給かもしれない。
でも違った。
辞めたらしい。
誰かが小さな声で言った。
それだけだった。
昨日まで普通だった
不思議なもので、
辞める前日に特別な空気はない。
普通に話していた。
普通に仕事していた。
普通に笑っていた。
だから余計に現実感がない。
昨日までいた人が、
今日はいない。
それだけ。
期間工では珍しくない
慣れてくる。
本当に慣れてしまう。
新人が入る。
数か月後。
いなくなる。
また新人が入る。
またいなくなる。
工場はずっと同じなのに、
人だけが入れ替わる。
最初の頃は驚いた。
今は驚かない。
でも寂しくないわけじゃない。
理由は聞かない
期間工には暗黙のルールみたいなものがある。
辞める理由を深く聞かない。
人間関係かもしれない。
体力かもしれない。
借金かもしれない。
家庭の事情かもしれない。
何も知らない。
だから聞かない。
お互いそうしている。
昼休憩
食堂へ行く。
いつも座っていた席を見る。
空いている。
当たり前なんだけど、
少し変な感じがする。
人間はすぐ慣れる。
でもすぐ忘れるわけじゃない。
自分もいつかいなくなる
ロッカーへ戻る。
安全靴を履く。
作業着を着る。
ふと思う。
自分もいつかいなくなる。
ここに永遠にいる人はいない。
社員ですら異動する。
期間工ならなおさらだ。
だから同期が辞めるたびに、
少しだけ未来を考える。
自分は何年ここにいるんだろう。
次は何をするんだろう。
何も決まっていない。
でも時間だけは進む。
工場は変わらない
午後。
ラインが動く。
機械が鳴る。
部品が流れる。
昨日と同じ。
先週と同じ。
去年と同じ。
工場は変わらない。
一人辞めても、
何も変わらない。
それが少し怖い。
そして少し安心する。
朝6時
仕事が終わる。
工場を出る。
空が明るい。
昨日と同じ朝。
でも昨日までいた人はもういない。
不思議な仕事だと思う。
人が消える。
人が来る。
また消える。
それを何度も繰り返す。
だからたまに思う。
今隣にいる人も。
自分も。
数年後には全く違う場所で生きているんだろうな、と。
結論
同期が辞めた朝に感じるのは、
寂しさだけじゃない。
焦りだ。
未来への焦り。
「自分はこのままでいいのか」
という焦り。
だから俺は、
配達を始めた。
貯金を始めた。
ブログも始めた。
何かを変えたかった。
同期が辞めた朝。
たぶん、
一番考えていたのは辞めた人のことじゃない。
自分の未来のことだった。