体験記満了が近づいた頃期間工7社経験
工場で班長に次はどうすると聞かれる期間工のイラスト
「次はどうする」は、他人からの質問ではなく、自分自身に毎日聞く言葉になった。
班長

「次はどうするの?」

作業が終わった後、班長にそう聞かれた。世間話のような軽い言い方だった。でも俺は、すぐに答えられなかった。「まだ、はっきり決めてないです」。結局、それだけ返した。

期間工を満了した後に何をするのか。契約更新をするのか。別の工場へ行くのか。正社員を目指すのか。地元へ戻るのか。自分ではずっと考えているつもりだった。けれど、言葉にしようとすると、何一つ決まっていなかった。

班長は深い意味で聞いたわけではなかった

その日は残業がなかった。片づけを終えて作業場から出ようとしていたとき、班長が近くに来て「もうすぐ満了だよな」と言った。責められたわけでも、何かを勧められたわけでもない。更新する人、地元へ帰る人、正社員登用を受ける人、別の工場へ行く人。班長にとっては、これまで何人もの期間工に聞いてきた質問だったのだと思う。期間工には、それぞれ終わりがある。その後を確認しただけだった。それなのに、その一言が妙に残った。

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「分かりません」とは言えなかった

本当は、分かりませんと答えるのが一番正しかった。でも、その言葉は言えなかった。もう30代だった。正社員経験もない。特別な資格もない。工場以外の仕事に自信もない。そんな状態で「何も決めていません」とは言いたくなかった。

だから「まだ、はっきり決めてないです」と少しだけ言い換えた。考えている途中です、選択肢はいくつかあります、という意味を含ませたつもりだった。でも実際は、答えを先延ばしにしていただけだった。

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正社員登用は受けなかった

少し前、休憩室の掲示板に貼られた正社員登用試験の案内を見た。応募はしなかった。安定した収入、賞与、昇給、契約満了を気にしなくていい生活。魅力はあった。それでも、この工場で何年も働く自分を想像できなかった。終わりがあるから、夜勤にもライン作業にも耐えられた。正社員になれば、自分で辞めると決めるまで終わらない。その重さを背負う覚悟がなかった。そして正直に言えば、登用試験に落ちるのも怖かった。

ただ、受けないと決めただけで、別の道ができたわけではなかった。班長の質問で、その現実を突きつけられた。

登用を受けなかった理由 期間工から正社員にならないと後悔する?登用を目指さなかった理由

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頭に浮かんだ選択肢は、どれも答えにならなかった

選択肢そのときの自分
別の期間工へ行く経験もある、夜勤もできる、寮にも慣れている。一番簡単だった。だからこそ怖かった
配達で生活する注文が少ない日も、天気が悪い日もある。休めば収入が止まる。安定して生活できる自信はなかった
ブログで稼ぐ初めて一円が発生した。でも、まだ一円。家賃も食費も払えない

困ったら期間工へ戻る。お金を貯める。辞める。貯金が減る。また戻る。何度も繰り返してきた道だった。「次はどうする」と聞かれたとき、最初に浮かんだ答えが「別の期間工」だったことが、一番苦しかった。

ブログのことも言わなかった。「ブログをやっています」と言ったところで、班長からすれば趣味に近く見えるだろう。実際、まだ仕事と呼べるような結果はなかった。

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他人に説明できない計画だった

自分の中では、少しずつ進んでいるつもりだった。借金を減らす。貯金を増やす。配達を始める。ブログを書く。工場以外の収入源を作る。でも、いつまでに、いくら稼ぐのか、どんな仕事に移るのか、何も決まっていない。計画というより、願望に近かった。

班長

「まあ、早めに決めた方がいいぞ」

それだけだった。正社員を勧めるわけでも、更新を迫るわけでもない。現実的な言葉だった。満了日は待ってくれない。寮を出る日も、給料が止まる日も来る。「まだ決めていない」は、ずっと使える答えではなかった。

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ノートに「次」を書いた

次の日、ラインに立ちながら班長の言葉を思い出していた。体は作業を続けているのに、頭の中では別のことを考えていた。答えは出なかった。ただ一つだけ分かった。仕事が終わってから考える、休みの日に考える、と言いながら疲れて寝てしまう日が続いていた。時間ができたら考えるのでは遅い。時間を作らなければいけなかった。

その夜、寮でノートを開き、上のほうに大きく「次はどうする」と書いた。その下に、契約更新、別の期間工、一般の転職、配達を増やす、ブログを続ける、地元へ戻る、と選択肢を書いた。

書き出してみると、どれか一つを選ぶ必要はないことに気づいた。期間工を続けながら転職先を探してもいい。配達で現金を作りながらブログを続けてもいい。次の仕事を一つに決めることより、次の選択肢を複数作る。今の自分には、そのほうが現実的だった。

  1. 生活費として残す金額を決める

    満了金を含めて、いくらあれば焦らず動けるのかを計算する。

  2. 期間工以外の求人を見る

    応募するかは別として、自分が選べる仕事を知る。

  3. 配達とブログを続ける

    金額は小さくても、工場以外で収入を作る経験を止めない。

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答えは変わってもいい

そのとき、初めて思った。一度決めた答えを、絶対に守る必要はない。転職を目指しても良い仕事が見つからなければ期間工を続けてもいい。ブログで収益が出なければ別の副業を試してもいい。配達がきつくなったら無理に続けなくてもいい。正解を一発で選ぼうとするから、動けなくなる。今できる準備をして、状況に合わせて変えればいい。それは逃げではなく、何も考えずに流されることとは違う。

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数日後、もう一度聞かれた

「次、決まった?」。前と同じような軽い聞き方だった。俺は答えた。「まだ確定ではないですけど、転職先を探しながら、ブログと配達は続けようと思っています」。口に出してみると、少し恥ずかしかった。どちらもまだ大した収入にはなっていない。それでも、前よりは答えられた。

班長

「そうか。寮を出るなら早めに準備しとけよ」

それで会話は終わった。背中を押されたわけでも、応援されたわけでもない。でも、自分の口から次のことを言えた。それだけで、少し前へ進んだ気がした。

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深夜2時の帰り道

工場の門を出て、また班長の言葉を思い出した。まだ、はっきりした答えはない。期間工を続けるかもしれない。別の仕事へ行くかもしれない。ブログを諦める日も来るかもしれない。それでも、以前とは違っていた。何も考えずに、次の求人へ応募するつもりはなかった。

班長の一言は、答えを教えてくれなかった。ただ、答えを出す期限が近づいていることを教えてくれた。あの夜から「次はどうする」は、他人からの質問ではなく、自分自身に毎日聞く言葉になった。

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