満了日まで、あと一か月。
休憩室のカレンダーを見て、
その数字に気づいた。
最初は遠くにあった。
半年後。
三か月後。
まだ先だと思っていた。
でも、
いつの間にか一か月前になっていた。
ラインはいつもどおり動いている。
機械の音も同じ。
休憩室の自販機も同じ。
それなのに、
自分の中だけ少し落ち着かなくなっていた。
期間工を満了した後、
次の仕事はどうするのか。
寮を出た後、どこに住むのか。
給料が止まっても、貯金で何か月生活できるのか。
応募した頃は、満了金を受け取ることばかり考えていた。
実際に満了が近づくと、
考えなければいけないのは、その後の生活だった。
満了1カ月前に決めるのは仕事・住居・お金
期間工の満了後について考える時、最初に整理したいのは次の三つだった。
| 項目 | 退職1カ月前に確認すること |
|---|---|
| 仕事 | 更新するか、転職するか、別の期間工へ行くか |
| 住居 | 退寮日、次に住む場所、引っ越し方法 |
| お金 | 貯金額、満了後の生活費、次の収入が入る時期 |
この三つは、それぞれ別の問題に見える。
しかし、実際にはつながっている。
次の仕事が決まっていなければ、無収入の期間ができる。
寮を出れば、家賃や引っ越し費用がかかる。
貯金が少なければ、仕事をゆっくり選ぶ余裕がなくなる。
自分の場合、口座残高は100万円を超えていた。給料日前に残高3,842円を見ていた頃より、状況はかなり良くなっていた。
それでも不安は消えなかった。
貯金は収入ではない。
仕事を辞めれば、生活するだけで少しずつ減っていく。
最終的に自分は契約更新を選んだ。
転職先、住む場所、工場以外の収入。
どれも、まだ期間工を辞められるほど準備できていなかったからだ。
ただし、何となく続けるための更新ではない。
次に出る準備をするための更新だった。
期間工の満了後に選べる4つの仕事
満了後の仕事には、大きく分けて四つの選択肢があった。
契約を更新して同じ工場で働く
更新できるなら、同じ職場で働き続けるのが最も生活を変えずに済む。
仕事は覚えている。
人間関係もある程度分かっている。
寮もそのまま使える場合がある。
毎月の給料も続く。
新しい会社で面接を受け、知らない工程を一から覚える必要もない。
自分にとっても、一番安全な選択だった。
ただし、更新には危険もある。
「もう少し貯めてから」
「次の満了金まで」
「仕事に慣れたから」
それだけで続けると、次の満了時にも同じことで迷う。
更新するなら、次の契約期間で何を達成するのか決める必要がある。
貯金をいくらまで増やすのか。
借金をどこまで減らすのか。
転職活動をいつ始めるのか。
期限と目的がなければ、更新は不安の先延ばしになりやすい。
別のメーカーの期間工へ行く
別の期間工へ移る方法もある。
期間工経験があれば、仕事内容や寮生活のイメージは持ちやすい。今より待遇の良い求人や、自分に合いそうなメーカーを探すこともできる。
自分にとっても、一般の転職より分かりやすい選択肢だった。
面接で聞かれそうなことが分かる。
交替勤務も経験している。
寮生活にも慣れている。
だからこそ、簡単に戻れてしまう怖さもあった。
今の期間工を満了する。
少し休む。
貯金が減る。
不安になって、また別の期間工へ応募する。
それを繰り返せば、勤務先は変わっても、生活の形は変わらない。
別の期間工へ行くなら、「前より条件が良いから」だけでなく、その会社で何を達成するのかまで考えた方がいい。
正社員や別業種へ転職する
期間工を満了した後、正社員や別業種へ転職する道もある。
ただ、自分は求人サイトを開くたびに、足りないものばかり見ていた。
年齢。
学歴。
職歴。
資格。
期間工なら働ける。
それは分かっている。
でも、工場以外で何ができるのか分からなかった。
正社員、契約社員、派遣、配送、警備、介護、営業。
求人はたくさん出てくる。
それでも、どれを選べばいいのか分からない。
この状態で満了してから転職活動を始めると、貯金が減る焦りも加わる。
だから、転職するか決めていなくても、契約期間中に求人を見る必要があった。
自分が応募できる仕事は何か。
手取りはいくらになるのか。
勤務地はどこか。
住居は自分で用意するのか。
必要な資格や経験はあるのか。
見るだけでも、期間工以外の道が少し具体的になる。
配達やブログを続ける
フードデリバリーやブログを始めていたため、満了後は副業を増やすことも考えた。
配達は、働きたい時間にアプリを開ける。
工場のように決まったシフトに縛られない。
ただし、配達は休めば収入が止まる。
雨の日もある。
注文が少ない日もある。
体調が悪ければ走れない。
生活費をすべて配達で稼ぐなら、自由に見えても、毎日走らなければいけない生活になるかもしれない。
ブログも、記事は少しずつ増えていた。
最初の一円も発生した。
しかし、家賃や食費を払える金額には程遠かった。
配達やブログは、期間工以外の収入を作る一歩にはなる。
それでも、退職直後から生活を支える前提で考えるには、まだ早かった。
期間工の満了後はどこに住む?
仕事と同じくらい重要だったのが、住む場所だった。
期間工の寮に住んでいる場合、仕事を辞めた後もずっと住み続けられるわけではない。退寮日や手続きは会社や寮によって異なるため、早めに確認する必要がある。
自分が考えた選択肢は三つだった。
実家へ戻る
実家へ戻れるなら、家賃や引っ越し後の生活費を抑えやすい。
次の仕事が決まるまでの時間も作りやすい。
ただ、家族との関係や実家の場所によっては、誰でも選べる方法ではない。
実家から通える範囲に仕事があるかも確認する必要がある。
次の勤務先の寮へ入る
別の期間工や寮付き求人へ移るなら、次の寮へ直接移動できる可能性がある。
住居費を抑えやすく、大きな家具や家電をそろえずに済む場合もある。
ただし、退寮日と次の入寮日に間が空くことも考えなければならない。
数日でも空白があれば、ホテル代や移動費が必要になる。
自分で部屋を借りる
一般の賃貸を借りれば、会社の契約に住居を左右されにくくなる。
一方で、初期費用がかかる。
家賃だけではない。
敷金や礼金。
仲介手数料。
保証料。
引っ越し代。
家具や家電。
寮では必要なかった支出が、一度に発生する可能性がある。
満了金が入るから大丈夫だと思っていた。
でも、住居に必要な金額を考えると、満了金は思っていたほど大きく見えなくなった。
まとまった金が入る。
でも、
その後の生活も同時に始まる。
退寮前に確認しておきたいこと
退寮直前になって慌てないため、次の項目を確認した。
- 最終出勤日
- 退寮期限
- 部屋の清掃範囲
- 鍵や貸与品の返却方法
- 荷物の発送方法
- 粗大ごみや不要品の処分
- 郵便物の転送
- 次の住所が決まるまでの滞在先
- 次の勤務先や住居までの交通費
寮へ入った時は、ボストンバッグ一つだった。
しかし、何か月も暮らしていると、少しずつ物が増える。
服。
日用品。
寝具。
調理器具。
配達バッグ。
パソコン。
退寮直前にすべて片づけようとすると、仕事をしながらでは間に合わない。
満了一か月前から、持っていく物、捨てる物、送る物を分け始めた方がいい。
満了後に必要なお金を計算する
満了後のお金を考える時、口座残高だけを見ても十分ではなかった。
大切なのは、
毎月いくら使い、何か月無収入で生活できるかだった。
自分はノートに、次の支出を書き出した。
- 家賃または一時的な宿泊費
- 食費
- 水道光熱費
- 通信費
- 引っ越し費用
- 交通費
- 税金や保険の支払い
- 借金返済
- 次の仕事が決まるまでの予備費
例えば、貯金が100万円あっても、毎月20万円必要なら単純計算で5か月分になる。
そこから引っ越し費用や部屋の初期費用を払えば、生活できる期間はさらに短くなる。
貯金額だけを見ると安心する。
生活費へ直すと、
時間が限られていることが分かる。
満了後にすぐ次の給料が入るとは限らない。
新しい会社へ入社しても、最初の給料日まで一か月以上空くことも考えられる。
その空白期間を埋められる金額が必要だった。
満了金を全額使えるとは限らない
応募した頃は、満了金を受け取ることが大きな目標だった。
借金を減らせる。
貯金を増やせる。
次の生活を始められる。
確かに、まとまった金が入ることは大きい。
ただし、その全額を自由に使える金だとは考えない方がいい。
退寮。
引っ越し。
次の住居。
無収入期間の生活費。
満了後には、まとまった支出も待っている。
自分は満了金を「頑張ったご褒美」ではなく、「次の収入まで生活をつなぐ金」として考えるようになった。
欲しいものを買えば、満了金はすぐ減る。
残しておけば、
焦って次の仕事を決めなくていい時間になる。
退職1カ月前からやったこと
満了後の不安を頭の中だけで考えていても、答えは出なかった。
そこで、一か月を四つに分けて準備した。
4週間前:選択肢を書き出す
最初に、満了後の選択肢をノートへ書いた。
- 契約更新
- 別メーカーの期間工
- 一般企業への転職
- 実家へ戻る
- 配達を増やす
- ブログを続ける
それぞれの横に、メリットと不安を書いた。
きれいな表ではなかった。
字も汚かった。
それでも、頭の中だけで考えるより、自分が何を怖がっているのか見えた。
3週間前:仕事と住居の条件を調べる
次に、求人と住居を調べた。
別の期間工へ行く場合。
一般企業へ転職する場合。
実家へ戻る場合。
部屋を借りる場合。
それぞれに、必要な金額と準備期間がある。
「辞めたら何とかなる」と考えるのではなく、辞めた翌日からどこで生活するのかまで考えた。
2週間前:生活費を計算する
貯金額。
満了時に入る金額。
退寮後の支出。
次の給料が入る時期。
分かる範囲で書き出した。
正確な金額が分からないものは、多めに見積もった。
想定よりお金が余る方がいい。
想定より早くなくなる方が怖い。
1週間前:更新するか辞めるか決める
仕事、住居、お金。
三つを比べた結果、自分は更新を選んだ。
今の時点で辞めれば、転職先も住居も決まっていない。
ブログと配達だけでは生活できない。
貯金はあるが、減っていく不安に耐えながら仕事を探すことになる。
もう少し今の環境を使って準備する方が、自分には合っていた。
ただし、次の満了までに何をするか決めた。
借金を減らす。
貯金を増やす。
期間工以外の求人を見る。
配達とブログを続ける。
更新することではなく、
更新後の時間をどう使うかが重要だった。
満了後が決まっていないなら更新すべき?
次の仕事も住む場所も決まっておらず、貯金も少ないなら、更新できる環境を使って準備する選択は現実的だと思う。
ただし、体調や精神面が限界なら話は別になる。
睡眠不足が続いている。
痛みが悪化している。
人間関係で出勤できないほど追い詰められている。
その状態で、お金だけを理由に続けるのは危ない。
反対に、次の仕事や住居が決まり、生活資金も準備できているなら、満了は次へ進む良い区切りになる。
判断する時は、次の三つを確認したい。
- 続ける明確な目的があるか
- 辞めた後の生活が具体的に見えているか
- 体調を壊さず次の契約期間を働けるか
不安があるから更新する。
不満があるから辞める。
それだけで決めると、後悔しやすい。
満了後の仕事、住居、お金まで並べて考える必要がある。
満了日まで、あと一か月
その日の帰り道、
配達はしなかった。
工場から寮まで、
まっすぐ帰った。
夜の道は静かだった。
工場の明かりが、
後ろで少しずつ小さくなっていく。
前には寮がある。
でも、その先の景色はまだ見えていなかった。
満了日が近づくほど、不安になった。
仕事が終わるからだけではない。
仕事と一緒に、
住む場所と毎月の収入までなくなる可能性があったからだ。
更新しても不安。
辞めても不安。
転職しても不安。
配達を増やしても不安。
どの道にも、不安は残る。
完全に安全な選択肢を探していたから、
何も決められなかったのかもしれない。
期間工へ応募した時も、不安が消えたからボタンを押したわけではない。
不安なまま押した。
満了後も同じだった。
不安が消えるのを待つのではなく、
仕事、住居、お金を一つずつ準備する。
満了日は終わりではない。
次の生活を考え始める期限だった。
その期限から、
もう目をそらさないことにした。
関連記事
- 期間工は契約更新すべき?続ける・辞めるを決めた7つの判断基準
- 期間工ループの末路は?何度も戻ってしまう理由と抜け出す条件
- 班長に「次はどうする」と聞かれた
- 最後の夜勤
- 寮の鍵を返した朝
- 残高が100万円を超えた日