給料日の夜。
寮のベッドに座り、
銀行アプリを開いた。
画面に表示された残高は、
1,023,184円。
一度閉じて、
もう一度開いた。
数字は変わらなかった。
100万円を超えていた。
期間工として働き始めてから、8か月。
平均手取りは月29万2,000円。毎月の給料から残せた金額は合計793,184円で、そこに満了金23万円を加えて100万円を超えた。
寮費と水道光熱費は0円。食費は月平均4万3,000円、借金返済には毎月7万円を回していた。
この時点では、フードデリバリーはまだ始めていない。
副業で増やした100万円ではない。
期間工の給料と満了金から、借金を返しながら残した金だった。
100万円までの数字
先に、100万円へ到達するまでの内訳をまとめる。
| 項目 | 金額・期間 |
|---|---|
| 100万円までにかかった期間 | 8か月 |
| 平均手取り | 月29万2,000円 |
| 給料から貯めた金額 | 793,184円 |
| 満了金 | 230,000円 |
| 合計 | 1,023,184円 |
| 寮費 | 0円 |
| 水道・光熱費 | 0円 |
| 食費 | 月平均43,000円 |
| 借金返済 | 月70,000円 |
| 副業収入 | 0円 |
数字だけを見ると、毎月10万円ずつ順調に貯めたように見える。
実際は、そんなにきれいではなかった。
残業が多くて14万円以上残せた月もあれば、コンビニや外食が増えて7万円台しか残せなかった月もある。最初の月は生活用品をそろえる出費もあり、貯金できたのは5万円だった。
8か月間の手取りと貯金額は、次のようになった。
| 月 | 手取り | 貯金できた金額 | その月の状況 |
|---|---|---|---|
| 1か月目 | 248,000円 | 50,000円 | 入寮後の生活用品で出費 |
| 2か月目 | 276,000円 | 85,000円 | 先取り貯金を開始 |
| 3か月目 | 301,000円 | 110,000円 | 残業が増えた |
| 4か月目 | 326,000円 | 145,000円 | 最も貯められた月 |
| 5か月目 | 284,000円 | 75,000円 | コンビニと外食が増えた |
| 6か月目 | 307,000円 | 105,000円 | 支出を立て直した |
| 7か月目 | 299,000円 | 113,000円 | 大きな出費なし |
| 8か月目 | 295,000円 | 110,184円 | 満了金前までの貯金 |
| 満了金 | ― | 230,000円 | 全額を貯金へ |
| 合計 | 1,023,184円 |
毎月の平均貯金額は、満了金を除くと約9万9,000円だった。
ただし、これは寮費と水道光熱費がかからなかったから残せた金額でもある。
同じ手取りでも、家賃が月6万円、水道光熱費が月1万円かかれば、8か月で56万円が消える。期間工で貯金しやすかった最大の理由は、給料の高さだけではなく、住居費を抑えられたことだった。
毎月の手取りをどう分けていたか
平均手取り29万2,000円の使い道は、おおよそ次のような形だった。
| 使い道 | 月平均 |
|---|---|
| 借金返済 | 70,000円 |
| 食費 | 43,000円 |
| 通信費 | 8,000円 |
| 日用品 | 12,000円 |
| コンビニ・娯楽 | 19,000円 |
| 交通費・衣類・医療費など | 約40,000円 |
| 貯金 | 約100,000円 |
給料が入ったら、最初に借金返済分と貯金分を分けた。
残った金で次の給料日まで生活する。
最初からそうしていたわけではない。以前は月末に余った金を貯めようとしていたが、その方法ではほとんど残らなかった。
給料日には、少し気が大きくなる。
コンビニで好きなものを買う。
ネット通販を見る。
休日に外食する。
一回の支払いは数百円か数千円でも、それを繰り返すと、給料日前には残高が減っていた。
だから順番を変えた。
余った金を貯めるのではなく、
貯めた後の金で生活する。
それだけで、残る金額は変わった。
最も貯められた月と浪費した月の差
最も貯められたのは4か月目だった。
手取りは326,000円。
残業が多く、休日もあまり出かけなかったため、145,000円を貯金へ回せた。
反対に、5か月目に残せたのは75,000円だった。
差は7万円。
5か月目は残業が減り、手取りが42,000円少なかった。それに加えて、夜勤明けのコンビニ、休日の外食、ネット通販で約28,000円多く使っていた。
収入の差が42,000円。
支出の差が28,000円。
合わせて7万円だった。
何か一つ、高価なものを買ったわけではない。
一回800円のコンビニ。
1,500円の外食。
数千円のネット通販。
その積み重ねだった。
手取りが少ない月ほど、本来は支出を抑えなければならない。
でも実際は、残業が少なく時間に余裕ができた月の方が、金を使っていた。
働きすぎれば疲れて出費が増える。
休みが増えても、暇になって出費が増える。
貯金は、給料の金額だけでは決まらなかった。
借金返済をしながら100万円を残した
当時は、借金も残っていた。
毎月7万円。
8か月で56万円を返した。
もし借金返済がなければ、その分を貯金に回すこともできた。単純に足せば、貯金額はもっと早く100万円を超えていたと思う。
でも、借金を後回しにするつもりはなかった。
利息が増える。
返済が長引く。
何より、口座に100万円あっても、反対側に借金が残っていれば、本当の意味で100万円持っているとは言いにくい。
一方で、貯金をすべて返済に回すのも怖かった。
期間工には契約満了がある。
寮を出ることになれば、引っ越し費用がかかる。
次の仕事がすぐ決まるとも限らない。
だから、借金返済と貯金を同時に進めた。
効率だけを考えれば、別の方法があったかもしれない。
それでも、手元に現金があることで、給料日前の不安は少しずつ減っていった。
満了金23万円は全額貯金した
100万円の中には、満了金23万円を含めている。
毎月の給料だけで100万円を貯めたわけではない。
給料から残した793,184円と、満了金230,000円。
合計で1,023,184円だった。
満了金が振り込まれた時は、まとまった金が急に入ったように見えた。
欲しいものもあった。
新しいスマホ。
パソコン。
少し良い服。
何日か旅行へ行くことも考えた。
でも、満了金は臨時収入ではない。
夜勤をして、残業をして、契約期間を終えるまで働いた結果だった。
使えば数日でなくなる。
残せば、次の仕事を焦って決めなくていい時間になる。
そう考えて、満了金には手をつけなかった。
100万円を超えた瞬間
もっと嬉しいと思っていた。
100万円を貯めれば、
何かが変わると思っていた。
給料日前に残高3,842円を見ていた頃は、100万円なんて遠い数字だった。
10万円を超えた時は安心した。
50万円を超えた時は、このまま続ければいけると思った。
そして、100万円。
画面には確かに、
1,023,184円と表示されている。
それでも、部屋は同じだった。
明日も工場へ行く。
目覚ましで起きる。
作業着を着る。
ラインに立つ。
人生が変わった感じはしなかった。
最初に考えたのは、
この100万円で何が買えるかではなかった。
仕事を辞めたら、何か月持つのだろう。
寮を出れば家賃がかかる。
引っ越し費用もいる。
税金や保険も自分で払う。
無収入になれば、100万円は少しずつ減っていく。
100万円は大きい。
でも、一生働かなくていい金ではない。
借金もまだ残っている。
期間工の契約にも終わりがある。
安心したはずなのに、
別の不安が見えるようになった。
100万円を貯めて分かったこと
期間工で100万円を貯めることはできた。
自分の場合は8か月かかった。
平均手取りは29万2,000円。
寮費と水道光熱費は0円。
借金返済は毎月7万円。
満了金23万円を含め、副業収入は含めていない。
条件だけを見れば、比較的貯めやすい環境だったと思う。
ただ、期間工になれば自動的に100万円貯まるわけではない。
寮費が安くても、コンビニや外食が増えれば残らない。
手取りが高くても、給料日に使えば残らない。
満了金が入っても、臨時収入だと思って使えばなくなる。
自分の場合は、給料日に先に貯金を分け、満了金へ手をつけなかったことで100万円を超えた。
それでも、100万円はゴールではなかった。
仕事を辞めれば減っていく。
体調を崩せば収入は止まる。
給料の振込元は一つしかない。
口座残高が増えたことで、
今度はそのことが怖くなった。
その夜。
銀行アプリを閉じた後、
フードデリバリーについて調べた。
登録に必要なもの。
配達バッグ。
スマホホルダー。
どれくらい稼げるのか。
期間工の給料だけに頼るのではなく、別の場所からも小さく収入を作りたかった。
100万円あれば安心できると思っていた。
実際には、
100万円を失いたくないと思うようになった。
だから、次の収入を探し始めた。
100万円はゴールではなかった。
次の一歩を踏み出すための、
最初の余裕だった。