その日も、
アクセスは少なかった。
仕事を終えて、
寮へ戻る。
作業着を脱ぐ前に、
スマホを開いた。
ブログの管理画面。
アクセス解析。
収益レポート。
毎日見ていた。
見る意味があるほど、
数字は動いていなかった。
それでも見てしまう。
0。
昨日も0。
一昨日も0。
もう慣れていた。
でもその夜だけ、
画面の数字が違っていた。
1円。
見間違いかと思った。
もう一度、画面を更新した。
1円。
初めて、
ブログからお金が発生していた。
たった一円だった
一円。
自販機で何も買えない。
コンビニでも何も買えない。
配達なら、
一件届ければ数百円になる。
工場なら、
一時間働けばもっと増える。
それに比べれば、
一円なんてほとんど意味がない。
普通に考えれば、
喜ぶような金額ではない。
でも、
しばらく画面から目を離せなかった。
自分が寝ている間か。
工場で働いている間か。
配達をしている間か。
どこかの誰かがブログを開いて、
その結果として一円が発生した。
その事実が、
金額よりも大きかった。
工場の一円とは違った
工場で働けば、
給料が入る。
決められた時間に出勤する。
決められた作業をする。
月末に給与明細を見る。
そのお金は大事だ。
生活を支えてくれる。
借金を減らしてくれる。
貯金を増やしてくれる。
でも、
自分が働いた時間と交換したお金だった。
配達も同じだ。
店へ行く。
商品を受け取る。
届ける。
報酬が表示される。
分かりやすい。
でも、
自分が動いた分だけしか増えない。
ブログの一円は違った。
昨日書いた記事が、
今日も残っていた。
自分が工場にいる間も、
誰かに読まれる可能性があった。
初めて、
自分の時間が少しだけ後ろに残った気がした。
時給で考えたら終わっている
冷静に考えれば、
完全に割に合わなかった。
記事を書くのに何時間もかかった。
仕事から帰って、
眠い目をこすりながら書いた。
休みの日も、
文章を直した。
タイトルを考えた。
見出しを変えた。
アクセス解析を見て、
落ち込んだ。
それだけやって、
一円。
時給で計算したら、
ほとんどゼロに近い。
むしろ、
サーバー代やドメイン代を考えれば赤字だった。
配達へ行った方が早い。
何度もそう思った。
一時間走れば、
その日のうちに現金に近い報酬が入る。
ブログは、
何時間書いてもゼロの日がある。
そういう意味では、
一円は効率の悪い収入だった。
でも、
その一円には、
配達の数百円とは違う重さがあった。
誰かが読んだかもしれない
収益が発生した記事を確認した。
たぶん、
期間工の話だった。
給料日前夜か。
寮生活の話か。
夜勤で眠れなかった話か。
正確には分からなかった。
でも、
誰かがそこにたどり着いた。
検索したのか。
リンクを押したのか。
偶然開いたのか。
分からない。
もしかしたら、
すぐに閉じたかもしれない。
最後まで読んではいないかもしれない。
それでも、
自分以外の誰かが、
このブログに触れた可能性があった。
アクセス0の日々とは違った。
画面の向こうに、
本当に人がいるのだと思えた。
最初に思い出したのは3,842円だった夜
一円を見て、
なぜか給料日前夜のことを思い出した。
口座残高は3,842円だった。
あの時は、
ただ給料日を待っていた。
金が入るまで、
残高は増えない。
自分で何かできる気がしなかった。
その後、
配達を始めた。
アプリを開けば、
自分の行動で収入を増やせた。
それだけでも大きな変化だった。
でも、
ブログの一円はさらに違った。
自分がいま動いていなくても、
過去に書いたものが小さく働いた。
本当に小さい。
たった一円。
でも、
給料日を待つだけだった頃から考えれば、
まったく別の種類のお金だった。
誰にも言えなかった
一円発生した。
そう誰かに言っても、
たぶん笑われる。
「一円?」
「それで?」
「配達行った方がよくない?」
そう言われると思った。
実際、
その通りだった。
一円では何も変わらない。
生活費にもならない。
借金返済にもならない。
だから誰にも言わなかった。
ただ、
スマホのスクリーンショットだけ撮った。
あとで見返すために。
いつか、
この一円から始まったと言える日が来るかもしれない。
来ないかもしれない。
それでも、
その夜の自分には十分だった。
嬉しさのあとに不安が来た
最初は嬉しかった。
でも、
少し時間が経つと不安になった。
これは偶然かもしれない。
明日はまた0円かもしれない。
一円が発生したからといって、
ブログで稼げるようになったわけではない。
記事数も足りない。
検索順位も低い。
読者も少ない。
収益化できたと言うには、
あまりにも小さい数字だった。
それでも、
完全なゼロではなくなった。
そこだけは、
大きかった。
0と1は違う。
0円と1円も違う。
1円になれば、
あとは増やす方法を考えられる。
そう思うことにした。
何が読まれたのかを考えた
その日から、
少しだけ記事の見方が変わった。
ただ書くだけではなく、
なぜ読まれたのかを考えるようになった。
タイトルは分かりやすいか。
検索する人が使う言葉が入っているか。
読者が知りたい答えに近いか。
自分の話だけで終わっていないか。
逆に、
情報だけで自分の体験が薄くなっていないか。
それまでの記事は、
自分の感情を書くことが中心だった。
それは大事だと思う。
でも、
検索して来る人には、
知りたいことがある。
期間工はきついのか。
寮生活はどうなのか。
貯金できるのか。
夜勤は眠れるのか。
その答えを、
自分の体験の中に入れていく必要があると思った。
物語だけでも、情報だけでも足りない
ただの日記なら、
誰にも見つからないかもしれない。
ただの情報記事なら、
大きなサイトに負ける。
自分が書けるのは、
その間だった。
検索されるテーマを書く。
でも、
求人サイトみたいには書かない。
自分が見た景色を書く。
工場の門。
寮の廊下。
夜勤明けの朝日。
給料日前の残高。
配達バッグを背負った帰り道。
そこに、
読者が必要としている情報を足す。
この形なら、
自分にも書けるかもしれない。
一円は、
それを考えるきっかけになった。
次の記事を書いた
その夜、
すぐに新しい記事を書いたわけではない。
眠かった。
体も重かった。
それでも、
下書きだけ開いた。
タイトルを一つ入れる。
「期間工で貯金100万円できる?」
これは検索されるかもしれない。
でも、
ただ方法だけを書くのは違う。
残高3,842円だった夜から、
100万円を超えた日までを書く。
その中で、
先取り貯金や寮生活のことを入れる。
自分の話と、
読者が知りたいことをつなげる。
そういう記事にしたかった。
一円が出た夜、
初めて少しだけ、
ブログの作り方が見えた気がした。
まだ何者でもなかった
ブログで一円稼いだ。
そう言っても、
何者にもなれない。
ブロガーと名乗るには早い。
副業で成功したとも言えない。
収益化できたとも言いにくい。
翌日も工場へ行く。
作業着を着る。
ラインに立つ。
仕事が終われば、
配達へ行く日もある。
生活はほとんど変わらない。
でも、
心の中では少しだけ違っていた。
今日書いた記事が、
いつかまた一円を生むかもしれない。
今日の経験が、
いつか誰かに読まれるかもしれない。
そう思えるようになった。
初めての一円
深夜。
寮の部屋で、
スマホの画面を見ていた。
1円。
小さすぎる数字。
でも、
自分にとっては、
ただの一円ではなかった。
期間工の給料でもない。
配達の報酬でもない。
過去に書いた文章が、
初めて生んだお金だった。
この先、
本当にブログが育つのかは分からない。
続けても、
たいした結果は出ないかもしれない。
それでも、
ゼロではなくなった。
その事実だけで、
もう少し続けてみようと思えた。
深夜2時の帰り道。に考えていたことが、
一円になった。
大げさだけど、
その夜だけは、
少しだけ未来が見えた気がした。
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