記事を公開した。

画面には、

「公開済み」

と表示されていた。


これで誰かが読みに来る。

少しだけ、そう思っていた。


期間工へ応募した日のこと。

初めて寮へ入った日のこと。

夜勤明けに見た朝日のこと。


自分なりに時間をかけて書いた。

文章がうまいとは思わない。


それでも、

自分にしか書けないことを書いたつもりだった。


公開ボタンを押す。

アクセス解析を開く。


0。


少し待つ。


まだ0だった。

誰か一人くらい来ると思っていた

ブログを始める前、

いろいろな人の記事を読んだ。


ブログで月1万円。

半年で月5万円。

会社を辞めて独立。


そんな言葉が並んでいた。


もちろん、

記事を一つ書いただけで稼げるとは思っていなかった。


でも、

誰か一人くらいは来ると思っていた。


インターネットに公開したのだから、

世界中の誰かが偶然見つける。


そんな簡単なものだと思っていた。


実際には、

誰も来なかった。

自分で開いた一件

少しして、

アクセス数が1になった。


思わず画面を見直した。


誰かが読みに来た。


そう思った。


でも、

すぐに気づいた。


自分だった。


公開した記事を確認するため、

スマホから何度も開いていた。


表示崩れはないか。

誤字はないか。

画像は出ているか。


そのアクセスが記録されていただけだった。


初めての読者は、

自分だった。

工場なら結果がすぐに見える

次の日も、

いつもどおり工場へ行った。


ラインに立つ。

部品が流れてくる。

工具を取る。

作業する。


一台終われば、

次が来る。


工場の仕事は分かりやすい。


作業をすれば、

目の前の製品が先へ流れていく。


配達も同じだった。


注文を受ける。

料理を届ける。


一件終われば、

報酬が表示される。


働いた結果が、

その日のうちに見える。


でもブログは違った。


二時間かけて記事を書く。


公開する。


何も起きない。


アクセス0。

収益0円。

反応もない。


昨日と何も変わっていなかった。

この記事に意味はあるのか

夜勤明け。

寮へ戻り、

パソコンを開いた。


アクセス解析を見る。


0。


昨日と同じだった。


自分の記事を読み返す。


急に全部が恥ずかしく見えた。


誰がこんな話を読みたいんだろう。


知らない期間工が、

寮へ入った話。

夜勤で眠れなかった話。

口座残高を見て不安になった話。


書いている本人には大事なことでも、

他人には関係がない。


そう思い始めた。


文章も変だった。


改行が多い。

同じ言葉を何度も使っている。

何を伝えたいのか分からない部分もある。


全部消そうかと思った。

ネットには自分より詳しい人がいる

検索すれば、

期間工について詳しく書かれたサイトがいくらでも出てきた。


メーカーごとの給料。

満了金。

寮の設備。

面接対策。


表もある。

写真もある。

情報も整理されている。


自分の記事より、

ずっと分かりやすかった。


フードデリバリーも同じだった。


一日に何万円稼いだ。

効率よく回る方法。

おすすめの自転車。


実績のある人が、

数字を出して説明している。


自分には、

見せられるような実績がなかった。


期間工で成功したわけではない。

配達で大きく稼いだわけでもない。

借金も残っている。


そんな人間が、

何を書けばいいのか分からなくなった。

それでも記事を書く理由

パソコンを閉じようとした。


その時、

最初の記事をもう一度開いた。


「応募ボタンを押すまで30分かかった」


期間工へ戻るか迷っていた時の話だった。


誰にも見せていなかった気持ち。


また工場へ戻ることへの恥ずかしさ。

金がない現実。

捨てられなかったプライド。


読み返しても、

うまい文章ではなかった。


でも、

あの日の自分が何を考えていたのかは残っていた。


記事を書かなければ、

その気持ちはたぶん忘れていた。


応募した。

採用された。

寮へ入った。


その事実だけが残り、

迷っていた30分のことは消えていたと思う。


ブログは、

誰かに読んでもらうためだけのものではない。


少なくとも最初は、

自分が生きた時間を残す場所でもいい。


そう思うことにした。

二本目の記事

新しい記事を書く画面を開いた。


また白いページだった。


タイトルを入力する。


「初めて寮のドアを開けた日」


鍵を受け取った時のこと。

長い廊下。

古い部屋の匂い。

ボストンバッグ一つで入寮したこと。


思い出せる範囲で書いた。


アクセスを増やす方法は分からない。


SEOという言葉も、

まだよく分かっていなかった。


タイトルに検索される言葉を入れる。

見出しを作る。

内部リンクを貼る。


調べると、

やるべきことが大量に出てきた。


全部を理解してから書こうとすると、

一文字も進まない。


だから、

まずは書くことにした。

仕事終わりに一行だけ書く

ブログを書く時間は、

最初から用意されているわけではなかった。


工場から帰る。

食事をする。

風呂に入る。


配達へ行った日は、

さらに帰りが遅くなる。


眠い。

疲れている。


パソコンを開く気になれない日も多かった。


そんな日は、

一行だけ書いた。


工場の門を出た。

今日は雨だった。


それだけの日もあった。


翌日に少し足す。


休みの日に見直す。


少しずつ記事にする。


工場では、

一台ずつ製品を流していた。


ブログも同じように考えた。


一日に全部作る必要はない。


一行ずつでも、

昨日より先へ進めばいい。

数字を見るのをやめられなかった

そう決めても、

アクセス解析は何度も開いた。


朝起きて見る。

休憩中に見る。

仕事が終わって見る。


0。


たまに1になる。


また自分かもしれない。


アクセスが増えないことより、

増えるかもしれないと期待している自分が嫌だった。


数字を気にしない。

好きなことを書く。


そう言えるほど、

きれいな気持ちではなかった。


いつか収益にしたかった。


工場と配達以外の収入が欲しかった。


だから、

読まれなければ意味がないとも思っていた。


記録として残したい。

でも金にもしたい。


その二つの間で揺れていた。

初めて読者らしいアクセスが来た

ブログを始めて、

何日か経った夜だった。


仕事を終え、

寮へ戻る。


いつものようにアクセス解析を開いた。


1。


また自分だと思った。


でも、

その日は記事を開いていなかった。


アクセス元を見る。


検索ではない。

どこから来たのかも、

はっきり分からなかった。


滞在時間も短い。


間違えて開いただけかもしれない。


それでも、

自分以外の誰かが来た可能性があった。


名前も分からない。

どこに住んでいるかも分からない。


記事を最後まで読んだかも分からない。


たった一件。


それでも、

アクセス0とは全く違って見えた。

一人に向けて書く

その日から、

少し考え方を変えた。


多くの人に読まれる記事を書こうとすると、

何を書けばいいのか分からなくなる。


だから、

一人を想像することにした。


夜勤明け。


コンビニの駐車場。


缶コーヒーを飲みながら、

スマホで「期間工 きつい」と検索している人。


期間工へ応募するか迷っている。


今の仕事を辞めたい。

金も貯めたい。

でも失敗するのが怖い。


過去の自分に近い人だった。


その人に向けて書く。


期間工は楽だとは言わない。

誰でも貯金できるとも言わない。


自分が見たもの。

失敗したこと。

不安だったこと。


それを正直に書く。


一人に届けば、

最初はそれでいい。

アクセス0の日々

その後も、

急にアクセスが増えたわけではない。


0の日もあった。

1の日もあった。


記事を増やしても、

誰にも読まれない日が続いた。


収益はもちろん0円。


サーバー代とドメイン代を考えれば、

赤字だった。


配達へ行けば、

その日のうちに数千円になる。


ブログへ使った二時間は、

何円にもならない。


何度も、

配達へ行った方がいいと思った。


実際に、

パソコンを閉じて配達へ出た日もある。


今日の金は、

今日働いた方が早い。


それでも、

帰ってから少しだけ書いた。

ゼロでも残っていたもの

アクセスはゼロだった。


収益もゼロだった。


でも、

何も積み上がっていないわけではなかった。


記事が一つ残った。


次の日には二つ。


少しずつ、

自分の経験がブログの中に増えていった。


工場の仕事は、

一日が終われば翌日に持ち越せない。


配達も、

一件終わればそこで完了する。


ブログの記事は、

公開した次の日も残っている。


誰にも読まれていなくても、

消えずにそこにある。


今日書いた文章が、

いつか誰かに見つかるかもしれない。


その可能性だけは残っていた。

深夜2時の更新

夜勤を終え、

短い配達を終える。


寮へ戻る前に、

コンビニの駐車場でスマホを開いた。


アクセス解析を見る。


0。


もう驚かなかった。


記事の下書きを開く。


思いついた一文を入力する。


同期が辞めた朝、

隣のロッカーは空になっていた。


保存する。


スマホを閉じる。


明日、

続きを書けばいい。


ブログを始めても、

すぐには何も変わらなかった。


アクセスはゼロ。

収益もゼロ。


それでも、

ゼロの中に一記事だけ残った。


その一記事が、

次の記事につながった。


誰かに読まれるより前に、

まず自分が書き続けられるかどうか。


最初に試されていたのは、

たぶんそこだった。



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