体験記Season 1 最終話期間工7社経験
深夜の街を見下ろしながら配達用の自転車を押す男性のイラスト
このままで終わりたくなかった。だから、ブログを始めた。

最後の配達を終えたのは、午前3時を少し過ぎた頃だった。アプリをオフラインにすると、今日の売上が表示される。工場を出た後に走った数時間分。大きな金額ではない。それでも、何もしなかった日よりは増えている。

スマホをポケットに入れ、寮へ向かった。道路にはほとんど車がいない。信号だけが、誰もいない交差点で赤と青を繰り返していた。工場にもいない。配達中でもない。寮にもまだ帰っていない。誰からも何も求められない、短い時間。嫌いではなかった。

シンヤ

でも、その夜はなぜか、同じ言葉が頭から離れなかった。このままで終わりたくない。

お金は少しずつ増えていた

期間工になって、生活は安定した。毎月給料が入る。寮がある。家賃も抑えられる。給料日前に残高3,842円を見ていた頃より、確実に状況は良くなっていた。

  • 前夜
    給料日前残高3,842円

    先取りで貯金を始めた。

  • 貯金
    少しずつ10万円、50万円を超えた

    無駄な支出も少し減らした。

  • 到達
    8か月後100万円を超えた

    借金を返しながら残したお金。

  • 副業
    その後フードデリバリーを始めた

    休日だけ、早く終わった日だけ、夜勤明けに一件だけ。

以前の自分が見れば、十分うまくいっているように見えたと思う。借金は減っている。貯金は増えている。仕事もある。それなのに、満足はしていなかった。

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明日も同じ一日

寮へ戻り、配達バッグを床に置き、作業着を脱いでシャワーを浴びる。コンビニで買った食事を温める。テレビはつけなかった。部屋には、電子レンジの音だけが響いていた。

明日も工場へ行く。目覚ましで起き、送迎バスに乗り、作業着に着替えてラインに立つ。仕事が終われば、体力が残っていたら配達する。帰って眠る。そして、また同じ一日が始まる。この生活を一年続ければ、お金はもっと増えるかもしれない。でも、それだけだった。

収入源は二つになった。でも、どちらも自分の体を動かさなければ一円にもならなかった。工場を辞めれば毎月の給料はなくなる。配達を休めば、その日の売上はゼロになる。自分が休んでいる間にも入ってくるお金はない。

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以前と何が変わったのか

口座残高は変わった。住む場所も、仕事も変わった。でも、自分の生き方はあまり変わっていなかった。お金が足りないから働く。疲れる。休む。また必要になるから、また働く。以前より収入は増えた。ただ、回っている場所が少し大きくなっただけのようにも思えた。

期間工を辞める。お金が減る。不安になる。また期間工へ戻る。自分の中で、それを期間工ループと呼んでいた。満了金を受け取り、少し休んでお金を使い、次の仕事が決まらず、また求人サイトを開く。今回も同じ終わり方になるかもしれない。そう考えると、急に怖くなった。

期間工ループ 期間工ループの末路は?何度も戻ってしまう理由と抜け出す条件

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何も積み上がっていない気がした

工場では、何台流したのか分からないほど同じ作業を繰り返した。配達でも、多くの商品を届けた。仕事は終わっている。でも、自分の中に何が残ったのかは分からなかった。経験は残っている。体力も少しついた。道にも詳しくなった。それでも、数年後につながる何かを作れている感覚はなかった。

工場で働いた時間は給料になる。配達した時間も報酬になる。でも、支払われた時点で終わる。自分が働いた時間が、未来にも残るものを作りたかった。

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パソコンを開いた

食事を終えると、午前4時を過ぎていた。眠らなければいけない。でも、すぐにベッドへ入る気にはなれなかった。机の上の、動作も少し遅くてファンの音がするパソコンを開き、「期間工 ブログ」と入力した。給料、寮、面接、満了金、おすすめメーカー。自分が応募する前に何度も読んだような記事が並んでいた。役に立つ。でも、どこか遠く感じた。

本当に知りたかったこと

  • 夜勤明けの朝が、どれくらいまぶしいのか
  • 初めて寮のドアを開けたとき、どんな気持ちになるのか
  • 隣のロッカーが空になった朝、何を考えるのか
  • 給料日前に残高を見る怖さ
  • 工場を出た後に、配達バッグを背負う理由

そういうことを書いているブログは、あまり見つからなかった。

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自分なら書けるかもしれない

文章を書いた経験は、ほとんどなかった。学校の作文も苦手だった。人に読ませられる文章なんて書けないと思っていた。それでも、自分にしか書けないことはある気がした。工場の門を出たときの空気。夜勤明けのコンビニ。寮の廊下に響く足音。配達先が見つからず、同じ道を何度も走った夜。

華やかな経験でも、成功した話でもない。でも、同じような場所にいる人はいる。給料日を待っている人。今の仕事を辞めたい人。何か始めたいけれど、何をすればいいか分からない人。そんな人が読んだときに、自分だけではないと思える文章なら、書けるかもしれない。

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ブログ名と最初の記事

期間工という言葉を入れるか。副業を入れるか。人生再生、借金返済、30代からのやり直し。どれも説明としては分かりやすいけど、自分の生活とは少し違う気がした。カーテンの隙間から、夜が少しずつ薄くなっていた。工場を出て、配達して、深夜の道を寮へ帰る。その時間に、一番いろいろなことを考えていた。誰にも話さないことを、一人で考えていた。

画面に入力した。深夜2時の帰り道。

記事を書く画面を開くと、白いページにカーソルだけが点滅していた。書いたところで誰も読まないかもしれない。一円にもならないかもしれない。それでも、何も始めなければ一年後も同じことを考えている。タイトル欄に「応募ボタンを押すまで30分かかった」と入れて、あの日に考えていたことを思い出しながら、一行ずつ書いた。

最初の記事 応募ボタンを押すまで30分かかった

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すぐには何も変わらなかった

記事を公開した。誰も読んでいなかった。しばらくして、自分のアクセスが一件表示された。それだけだった。収益もゼロ。ブログを始めたからといって、翌日から工場へ行かなくてよくなるわけではない。目覚ましは鳴り、送迎バスに乗り、ラインに立つ。生活は何も変わらなかった。

でも、一つだけ変わった。工場で感じたことが、ただ消えていくだけではなくなった。寮で考えたこと、配達中に見た景色、給料日前の不安。全部、記事にできると思うようになった。昨日まで消費していた時間が、少しずつ言葉として残るようになった。

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稼げるかは分からなかった

工場と配達

一時間残業すればいくら増えるか計算できる。一件配達すれば報酬が表示される。今日のお金を作る仕事。

ブログ

何時間書いてもゼロかもしれない。何か月続けても読まれないかもしれない。でも、未来に残るものになるかもしれない。

効率だけで考えれば、配達へ行ったほうが早い。それでも続けてみようと思った。初めて、今月の収入ではなく、数年後を考えて始めたことだった。

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このままで終わりたくなかった

期間工が嫌いなわけではない。仕事がなかったときに働く場所をくれた。寮があった。給料が入った。借金を返せた。貯金もできた。フードデリバリーも、すぐに始められて働いた分だけ報酬になった。どちらも、今の自分に必要な仕事だった。

でも、必要だったことと、ずっと続けたいことは違う。体力がなくなるまで働き、眠って、また働く。それだけで人生を終えたくなかった。何者かになりたいわけでも、有名になりたいわけでもない。ただ、数年後の自分に、今とは違う選択肢を残したかった。

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深夜2時の帰り道

ブログを始めても、すぐに何かが変わったわけではない。今も工場へ行く。今も配達バッグを背負う。将来への不安も消えていない。でも、深夜2時の帰り道に考えていたことを、言葉にする場所ができた。今日も疲れた。明日も仕事だ。それでも、帰ったら一行だけ書こうと思えるようになった。

一行では、人生は変わらない。一記事でも変わらない。でも、何も書かなかった一年と、少しずつ書き続けた一年は、きっと違う。そう信じることにした。

期間工に応募した日。寮のドアを開けた日。初めて夜勤を終えた朝。同期が辞めた日。残高が3,842円だった夜。100万円を超えた日。初めて配達した日。全部が、このブログにつながっていた。これは、成功した人間の話ではない。まだ途中にいる人間の記録だ。期間工と配達を続けながら、人生を少しずつ立て直していく。その続きを、ここに残していこうと思う。

Season 1 人生を立て直す・完

  1. 応募ボタンを押すまで30分かかった
  2. 寮のドアを開け、夜勤を覚え、同期を見送った
  3. 残高3,842円の夜から、100万円を超えた日へ
  4. 配達を始め、そして、ブログを始めた
体験記 同期が辞めた朝 体験記 給料日前夜 副業のその後 夜勤明けに配達する生活は続けられる?


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