※この記事は筆者がデンソーで物流工程を担当した当時の実体験です。車両、ルート、周回時間、取り扱う部品は工場・職場・生産状況によって異なります。
でも実際は、次の15分との勝負。
組立より身体が楽な配属はある。ただし、速度を上げられない運搬車で、時間・安全・部品の種類を守りながらラインへ供給し続ける。
1周約15分
走って挽回できない
ライン停止の可能性
期間工の工程で、組立より「当たり」に見えやすいのが物流だ。
車体へ入り込んで部品を付けるわけでもない。インパクトドライバーを一日中使うわけでもない。
求人や工程説明だけを見ると、「部品を運ぶだけなら楽そう」と思うかもしれない。
実際、組立より身体が楽な作業もある。ただ、物流には別のきつさがある。
物流は「物を運ぶ仕事」というより、ラインを止めないために、必要な部品を時間どおり供給する仕事に近い。
期間工の物流では何をする?
自動車工場の物流では、倉庫や部品置き場から生産ラインへ部品を供給する。
代表的な作業は次のとおりだ。
- フォークリフトでの運搬
- エレカ・電動運搬車でのライン供給
- 手押し台車での部品運搬
- 部品のピッキングと棚への補充
- 空箱の回収
- 完成品や部品の運搬
工場によってやり方はかなり違う。フォークリフトへ乗り続ける人もいれば、エレカで工場内を巡回する人もいる。
自分がデンソーで物流を担当したときは、一般的なエレカより大きい電動の運搬車を使ってラインへ部品を供給していた。
小さな牽引車より一回り大きい車両で、後ろに部品を積んだ台車を連結して工場内を回る。
デンソーでは1周約15分でラインへ部品を供給していた
自分が担当した物流では、部品を積んだ電動運搬車で決められたルートを回った。
流れはシンプルだ。ただし、この一連の作業を15分の中で終わらせなければならない。
しかも、少し遅れたからといってアクセルを踏み、走行中に取り返せるわけではなかった。
運搬車は速度制限があり、物理的に急げない
ここが物流の厄介なところだった。
運搬車には速度制限がある。工場内には歩行者、フォークリフト、ほかの運搬車もいる。当然、安全のために好きな速度では走れない。
だから一度遅れると、「急いで走って取り戻す」ことが物理的にできない。
- 積み込みに時間がかかった
- 通路が混んでいた
- 空箱の回収に手間取った
- 前の車両が詰まった
こうした小さな遅れが、そのまま次の周回へ響く。
取り戻すなら、停車中の作業から無駄を削るしかない。降ろす。積む。確認する。次へ行く。
止まっている時間を減らす仕事に近かった。速度を上げられないからこそ、積み下ろしと確認の手順が重要になる。
供給が遅れるとラインが止まり、残業が増えることもある
物流で一番避けたいのが部品切れだ。
ライン側の棚から部品がなくなれば、その先の作業者は仕事ができない。最悪の場合、ラインが止まる。
自分たちの供給が遅れれば、その遅れが工場全体の残業につながることもある。
部品を運んでいるだけに見える。しかし、その部品が来なければ組立はできない。
ラインが止まれば、その後で遅れを取り戻す。生産が後ろへずれ、残業になる。
物流で本当にきついのは時間管理
物流は、組立のように1台約60秒で直接作業するわけではない。それでも時間には追われる。
デンソーでの自分の作業なら、15分で一周することが実質的なタクトだった。
一周目が1分遅れる。次の積み込みも1分遅れる。さらに通路で詰まる。
少しずつ、借金のように遅れが増える。しかし運搬車には速度制限があるため、走行中にその借金を返せない。
エレカ・台車・フォークリフトは別のきつさがある
乗っている時間だけなら身体は比較的楽だ。ただし、歩行者、フォークリフト、ほかの物流車両、交差点、曲がり角を見ながら走る。後ろの台車が大きく膨らむこともあり、適当には曲がれない。
物流だからといって全員が乗り物へ乗れるわけではない。広い工場を一日歩き、部品を積んだ台車を動かす。重量部品なら、動き出しと停止で腕や腰も使う。
肉体的に楽な配属もあるが、重量物を扱い、人や設備へ接触すれば大事故になる。狭い場所へのパレット差し込みなど、細かい操作中も注意を切らせない。
誤供給も怖いが、ルートを覚えるとかなり楽になる
物流は時間だけ守ればいいわけではない。
同じように見える部品でも、右用、左用、色違い、仕様違い、車種違いと細かく分かれている。違う部品を供給すればラインで作業できない。
焦って間違えれば意味がない。慎重すぎれば遅れる。慣れるまでは、このバランスが難しい。
最初に苦労するのは、工場内の位置関係だ。どこで積み、どこで降ろし、どの通路を通り、どこで空箱を取るのか。
自分も最初は、15分の一周に余裕がなかった。
しかし慣れると、次の停車場所、降ろす部品、回収する空箱、その次の動きを考えなくても身体が動く。乗り降りと積み下ろしの無駄も減る。
急ぐのではなく、迷いと無駄を減らす。ルートが頭へ入ると、同じ15分でも余裕がまったく違う。
物流は組立より楽なのか
結論は、配属による。
電動運搬車やフォークリフト中心なら、組立より身体が楽なことは多い。一方で、時間管理、部品切れ、誤供給、安全確認、長時間の歩行、重量物という別の負担がある。
| 物流作業 | 主なきつさ |
|---|---|
| 電動運搬車・エレカ | 時間管理・安全確認 |
| フォークリフト | 事故への緊張・集中力 |
| 手押し台車 | 歩行・重量物 |
| ピッキング | 歩行・部品確認 |
| ライン供給 | 部品切れ・誤供給 |
物流は足・時間・神経へ。
まとめ|物流は「運ぶだけ」ではない
物流は、組立より当たり工程と言われることがある。
自分もデンソーで電動運搬車へ乗っていたとき、身体だけを見れば組立より楽だと感じた。
ただ、1周約15分。遅れれば部品供給が遅れ、ラインが止まる可能性がある。場合によっては、その遅れが残業へつながる。
しかも運搬車には速度制限がある。
遅れたから急ぐ、ができない。
組立が「目の前の1台との勝負」なら、物流は次の15分との勝負に近い。
物を運ぶだけではない。ラインを止めないよう、時間、安全、部品の種類を全部見ながら回す。
それが、自分が経験した自動車工場の物流だった。