目覚ましが鳴らなかった。

それでも、

いつもの時間に目が覚めた。

スマホを見る。

出勤時間にはまだ早い。

一瞬、

今日は昼勤だったか、夜勤だったかを考えた。

すぐに思い出した。

もう工場へ行かなくていい。

作業着を着る必要もない。

送迎バスの時間を気にする必要もない。

ラインも、

朝礼も、

残業もない。

自由になった。

そう思った。

でも、

起き上がってから何をすればいいのか分からなかった。


出勤しなくていい朝

期間工として働いていた時は、一日の流れが決まっていた。

起きる。

顔を洗う。

作業着を着る。

工場へ向かう。

自分で予定を決めなくても、出勤時間になれば一日が始まった。

仕事が終われば寮へ戻る。

余裕があれば配達する。

疲れていれば眠る。

毎日同じことの繰り返しだった。

辞めたいと思ったことは何度もある。

目覚ましが鳴らない朝を、何度も想像した。

好きな時間に起きる。

平日の昼間に出かける。

夜勤を気にせず眠る。

やりたかったことをする。

期間工を満了すれば、時間を取り戻せると思っていた。

実際に迎えた朝は、

思っていたより静かだった。

何をしてもいい日は、何もしない日になった

予定は何もなかった。

次の仕事は決まっていない。

面接の予定もない。

誰かと会う約束もない。

配達アプリを開けば仕事はできる。

パソコンを開けばブログも書ける。

求人サイトを見ることもできる。

やることはある。

でも、

やらなければならないことはなかった。

布団の中でスマホを見た。

動画を開く。

少し見て閉じる。

ニュースを見る。

求人サイトを開く。

また閉じる。

気づけば一時間が過ぎていた。

工場にいた頃なら、すでに何台も作業を終えている時間だった。

何もしていないのに、

少し疲れていた。

自由は思ったより重かった

工場で働いている時は、決められた生活が嫌だった。

何時に起きるか。

何時に働くか。

いつ休憩するか。

何時に帰れるか。

すべて勤務表とラインの都合で決まる。

自分の時間なのに、自分で決められる部分は少なかった。

辞めれば自由になれる。

そう思っていた。

でも自由になると、今度はすべて自分で決めなければならない。

何時に起きるのか。

今日は何をするのか。

どの仕事へ応募するのか。

貯金を何に使うのか。

配達へ行くのか。

ブログを書くのか。

何もしないのか。

誰も指示してくれない。

正解も分からない。

工場の中では、次の部品が流れてきた。

工場の外では、

次に何をするかを自分で用意しなければならなかった。


銀行口座を確認した

布団から出て、

銀行アプリを開いた。

貯金は残っている。

期間工として働く前より、口座の数字は増えていた。

借金も減った。

給料日前に残高3,842円を見ていた頃とは違う。

今すぐ生活できなくなるわけではない。

それでも、

口座残高を見る回数は増えた。

期間工として働いていた時は、減っても次の給料日があった。

残業をすれば、その分だけ翌月の給料も増えた。

満了金もあった。

今は違う。

家賃。

食費。

通信費。

税金。

保険。

生活すれば、少しずつ残高が減る。

次の収入が決まっていない状態では、コンビニで使う数百円まで以前より重く見えた。

貯金はあった。

でも、

給料日はなくなった。

満了金が入っても金持ちではなかった

満了前は、満了金が入れば少し休めると思っていた。

まとまった金が振り込まれる。

働き終えた安心感もある。

少しくらい好きなことをしてもいい。

そう考えていた。

実際には、満了金を使う気になれなかった。

引っ越しや移動に金がかかる。

次の仕事が決まるまで生活費も必要になる。

寮を出たことで、今まで抑えられていた住居費も発生する。

満了金はご褒美ではなかった。

次の収入まで生活をつなぐ金だった。

使えば減る。

当たり前のことなのに、

給料が止まってから急に現実味を持った。

求人サイトを開いた

昼前。

パソコンを開き、

求人サイトを見た。

工場。

倉庫。

配送。

警備。

営業。

介護。

正社員。

派遣社員。

契約社員。

いろいろな仕事が並んでいる。

期間工として働いていた時も見たことはあった。

でも、その時は翌月も給料が入る状態で見ていた。

今は違う。

この中から、

本当に次の仕事を選ばなければならない。

応募条件を見る。

経験者歓迎。

要普通免許。

高卒以上。

資格保有者優遇。

一つずつ読むたび、自分に足りないものが目に入った。

中卒。

正社員経験なし。

資格も少ない。

工場勤務と配達の経験はある。

それで何に応募できるのか。

見ているうちに、

また期間工の求人が一番簡単に見えてきた。

寮あり。

未経験可。

高収入。

満了金。

一度経験している。

仕事の流れも想像できる。

また戻れば、

生活はすぐに安定するかもしれない。

辞めた翌日なのに、

もう期間工の求人を見ていた。

また戻るのが一番楽だった

新しい業界へ行けば、一から覚えなければならない。

面接では、なぜ期間工を辞めたのか聞かれるかもしれない。

正社員経験がないことも説明しなければならない。

採用されたとしても、給料がいつ入るか分からない。

住む場所も自分で用意する必要がある。

期間工なら、

そうした不安の多くをまとめて解決できる。

寮がある。

給料も高い。

自分でも採用される可能性がある。

困った時の選択肢として強すぎた。

このまま何も決まらなければ、また期間工へ戻る。

少し前に想像した未来が、

すぐ近くに見えた。

期間工を辞めたからといって、

期間工ループを抜けたわけではなかった。

配達アプリを開いた

午後になり、

配達アプリを開いた。

地図には注文が動いている場所が表示されていた。

オンラインにすれば、今日からでも収入を作れる。

面接もない。

合否を待つ必要もない。

一件届ければ、報酬が入る。

工場の給料が止まった今、

その即金性はありがたかった。

配達バッグを準備する。

スマホを充電する。

外へ出る。

注文を受ける。

店へ向かう。

期間工を辞めた翌日でも、配達中は以前と変わらなかった。

商品を受け取り、

指定された住所へ届ける。

完了ボタンを押す。

報酬が表示される。

その数字を見た時、

少し安心した。

給料日がなくても、

完全に収入がゼロになったわけではない。

ただ、数件走ると体が重くなった。

期間工を辞めれば、もっと元気になると思っていた。

実際には、これまでの疲れが残っていた。

配達はすぐ金になる。

でも、

走らなければ何も入らない。

仕事は変わっても、自分の体を使って金を作ることは同じだった。


帰る部屋が変わった

配達を終え、

アプリをオフラインにした。

いつもの癖で、

寮へ戻る道を考えそうになった。

もう寮の鍵はない。

あの部屋へは戻れない。

昨日まで当たり前に帰っていた場所がなくなると、道の景色まで少し違って見えた。

今いる場所は、一時的な生活の場所だった。

荷物もまだ完全には片づいていない。

段ボール箱が部屋の隅に置かれている。

次にどこで暮らすのかも決まっていない。

期間工を辞めるということは、仕事を変えることだと思っていた。

実際には、

生活の形をすべて作り直すことだった。

パソコンを開いた

夜。

配達から戻り、

パソコンを開いた。

求人サイトではない。

ブログの記事を書く画面だった。

白いページに、

タイトルを入力した。

「期間工を辞めた翌日、予定は何もなかった」

今日のことを書こうと思った。

目覚ましが鳴らなかったこと。

出勤しなくていいのに落ち着かなかったこと。

求人サイトを開き、また期間工を見ていたこと。

配達をして、少し安心したこと。

自由になったはずなのに、

何をすればいいか分からなかったこと。

成功した話ではない。

転職が決まった話でもない。

期間工を辞めれば、すぐ新しい人生が始まると思っていた。

実際には、

何も決まっていない一日が始まった。

そのまま書いた。

何もない日にも意味はあった

工場で働いている時、予定のない一日が欲しかった。

実際に手に入れると、不安になった。

仕事をしていない。

収入が減る。

何も積み上げていない。

そんな気がした。

でも、

何も決まっていないから考えられることもあった。

本当にまた期間工へ戻るのか。

配達をどこまで続けるのか。

どんな仕事なら長く働けるのか。

ブログを何のために書くのか。

工場にいた頃は、疲れて後回しにしていた。

今は時間がある。

その時間を不安だけで使うのか、次の準備に使うのか。

そこは自分で決められる。

自由は重かった。

でも、

使い方まで誰かに決められるよりはよかった。

明日の予定を作った

ノートを開いた。

明日やることを書いた。

朝に起きる。

求人を三件見る。

一件は応募条件を詳しく調べる。

配達は夕方に二時間だけ。

ブログの記事を少し進める。

大した予定ではない。

会社員の予定表と比べれば、何も決まっていないのと同じかもしれない。

それでも、

今日よりはよかった。

期間工をしていた時は、会社が予定を作ってくれた。

これからは、

自分で一日を作らなければならない。

最初から完璧にできるわけではない。

予定どおりに動けない日もある。

それでも、何もしないまま不安になるより、一つだけ決めた方が前へ進める。

深夜2時の帰り道はなかった

その夜、

深夜2時になっても外にはいなかった。

工場の門を出ることもない。

配達からも、すでに戻っていた。

部屋の中は静かだった。

目覚ましを設定する。

工場へ行くためではない。

自分で決めた予定を始めるためだった。

期間工を辞めた翌日、

予定は何もなかった。

自由になった。

不安にもなった。

また期間工へ戻る未来も見えた。

それでも、

同じ一日を繰り返す必要はなくなった。

明日何をするかは、

自分で決められる。

それが良いことなのかは、まだ分からない。

でも、

何も決まっていないことは、

何も始められないこととは違う。

白紙の予定表に、

一つずつ書けばいい。

期間工を辞めた翌日は、

新しい生活の始まりではなかった。

新しい生活を、

自分で作り始める前の日だった。