満了日まで、あと一か月。

休憩室のカレンダーを見て、

その数字に気づいた。


最初は遠くにあった。

半年後。

三か月後。

まだ先だと思っていた。


でも、

いつの間にか一か月前になっていた。


ラインはいつもどおり動いている。

機械の音も同じ。

休憩室の自販機も同じ。


それなのに、

自分の中だけ少し落ち着かなくなっていた。


終わりが近づいている。


そう思うと、

仕事中でも頭のどこかがざわついた。

期間工には終わりがある

期間工として働く時、

契約期間は最初から決まっている。


三か月。

六か月。

一年。


会社や契約によって違うけれど、

いずれにしても、

永遠に続く仕事ではない。


もちろん更新されることもある。

満了後にまた別の会社へ行く人もいる。

正社員登用を目指す人もいる。


道はいくつもある。


でも、

一度区切りが来ることだけは同じだった。


正社員のように、

何となく来年も同じ場所にいるとは思えない。


満了日が近づくと、

その現実が急に近くなる。


今の生活が、

一度終わる。


そのことを考え始めた。

最初は満了金だけ見ていた

応募した頃は、

満了金のことばかり見ていた。


いくらもらえるのか。

何か月働けば入るのか。

残業代と合わせてどれくらい貯まるのか。


数字を見ると、

希望が持てた。


この金で借金を減らせる。

貯金を増やせる。

次の生活の準備ができる。


そう思っていた。


でも満了日が近づくと、

満了金より先に考えることが増えた。


満了した後、

どこに住むのか。


次の仕事はどうするのか。


保険や税金はどうなるのか。


寮を出るなら、

引っ越し費用はいくらかかるのか。


それを考えると、

満了金は思っていたより大きく見えなくなった。


まとまった金が入る。


でも、

その後の生活も始まる。

休憩室で聞かれた

休憩中、

同じ班の人に聞かれた。


「満了したらどうするの?」


何気ない質問だった。


相手に悪気はない。

ただの雑談だったと思う。


でも、

すぐに答えられなかった。


「まだ考え中ですね」


そう返した。


本当は、

ずっと考えていた。


でも答えがなかった。


更新するのか。

別の期間工へ行くのか。

地元へ戻るのか。

転職するのか。

配達を増やすのか。

ブログに時間を使うのか。


選択肢はあるようで、

どれも決め手がなかった。


だから、

「考え中」としか言えなかった。

貯金は増えたけど不安は消えなかった

残高は以前より増えていた。


100万円を超えた。

借金も少しずつ減っていた。


給料日前に残高3,842円を見ていた頃と比べれば、

かなり変わった。


それでも、

満了日が近づくと不安になった。


貯金があれば安心できると思っていた。


実際、

ないよりはずっと安心できる。


でも、

貯金は収入ではない。


使えば減る。


生活すれば減る。


仕事が決まらなければ、

減る速度は早くなる。


100万円を見た時にも思った。


これはゴールではない。


止まっているための金ではなく、

次を考えるための時間を買う金だ。


その意味が、

満了日を前にしてはっきり分かってきた。

更新すれば楽だった

契約更新できるなら、

更新するのが一番楽だった。


住む場所はそのまま。

仕事も分かっている。

人間関係もある程度見えている。


また最初から覚え直さなくていい。


給料も入る。

貯金も続けられる。


不安を先延ばしにするには、

一番現実的だった。


でも、

それでいいのかと思った。


更新すれば、

また同じ生活が続く。


工場へ行く。

帰って寝る。

余裕があれば配達する。

少しブログを書く。


金は増えるかもしれない。


でも、

自分の未来が大きく変わる気はしなかった。


もちろん、

更新が悪いわけではない。


生活を安定させるために必要なら、

それは正しい選択だと思う。


ただ、

自分の場合は少し怖かった。


また半年。

また一年。


そうやって、

気づいたら何年も同じ場所にいる気がした。

辞めるのも怖かった

更新が怖い。


でも、

辞めるのはもっと怖かった。


寮を出る。

仕事がなくなる。

毎月の給料が止まる。


それだけで、

急に足元がなくなるような感じがした。


求人サイトを見る。


正社員。

契約社員。

派遣。

工場。

配送。

営業。

介護。

警備。


いろいろ出てくる。


でも、

どれを選べばいいのか分からない。


年齢。

学歴。

職歴。

資格。


自分の足りないものばかり目に入る。


期間工なら働ける。


それは分かっている。


でも、

そこから先に進む方法が分からなかった。


辞めたいのに、

辞めた後が見えない。


それが一番きつかった。

配達を増やせばいいのか

フードデリバリーも考えた。


満了した後、

しばらく配達で生活する。


時間は自由になる。

働きたい時に働ける。


工場のように、

決まった時間に縛られない。


少し魅力的に見えた。


でも、

すぐに現実も見えた。


配達は休めば収入が止まる。


雨の日もある。

鳴らない日もある。

体調が悪い日もある。


月にいくら稼げるかは、

かなり不安定だった。


生活費を全部配達でまかなうのは、

簡単ではない。


それに、

体を動かし続ける働き方であることは、

工場とあまり変わらない。


自由に見える。


でも、

生活費を稼ぐために毎日走るなら、

それは別の形の不自由かもしれないと思った。

ブログに賭けるには早すぎた

ブログもあった。


記事は少しずつ増えていた。


初めて一円が発生した。


アクセスも、

完全なゼロではなくなっていた。


でも、

生活できる金額には程遠かった。


ブログに集中すれば伸びるかもしれない。


そう思う日もあった。


でも、

「かもしれない」で寮を出る勇気はなかった。


サーバー代。

ドメイン代。

記事を書く時間。


全部投資ではある。


でも、

収益になる保証はない。


ブログは未来に残るかもしれない。


ただ、

今月の家賃を払ってくれるわけではない。


満了後の生活をブログだけに賭けるには、

まだ早すぎた。

何を選んでも不安だった

更新しても不安。

辞めても不安。

別の仕事を探しても不安。

配達を増やしても不安。

ブログに時間を使っても不安。


結局、

どの道にも不安はあった。


不安がない選択肢を探していたから、

何も決められなかったのかもしれない。


完全に安全な道なんて、

たぶんない。


期間工に戻る時もそうだった。


応募ボタンを押すまで30分かかった。


あの時も、

不安が消えたから押したわけではない。


不安なまま、

押した。


満了後のことも、

同じなのかもしれない。


不安が消えるのを待っていたら、

何も決められない。

ノートに書き出した

その夜、

寮の部屋でノートを開いた。


給料日前夜に、

支出を書き出したノートだった。


今度は、

満了後の選択肢を書いた。


契約更新。

別メーカーの期間工。

地元へ戻る。

配達を増やす。

転職活動。

ブログ継続。


それぞれの横に、

メリットと不安を書いた。


きれいな表ではない。


字も汚い。


でも、

頭の中だけで考えているよりはよかった。


不安は、

書くと少し小さくなる。


消えるわけではない。


ただ、

何が怖いのかは見える。


自分が怖かったのは、

仕事が終わることだけではなかった。


次の目的がないまま、

また同じ場所へ戻ることだった。

目的を決める

満了後に何をするか。


その答えはすぐには出なかった。


でも、

一つだけ決めた。


どの道を選んでも、

ブログは続ける。


更新しても。

別の期間工へ行っても。

配達を増やしても。

転職活動をしても。


ブログだけは続ける。


理由は簡単だった。


工場も配達も、

働いた時間がそのまま金になる。


でも、

ブログは経験が記事になる。


不安も。

迷いも。

失敗も。


全部、

誰かに届く可能性がある。


満了日が近づいて不安になったことも、

記事にできる。


そう思うと、

少しだけ前向きになれた。


この不安も、

ただ消費して終わるものではない。


残せる。

満了日まであと一か月

カレンダーを見る。


満了日まで、

あと一か月。


昨日より近い。


明日はもっと近くなる。


不安はまだある。


でも、

見ないふりはしないことにした。


いくら貯金があるのか。

満了金はいくら入るのか。

次の住む場所はどうするのか。

仕事は続けるのか、変えるのか。


一つずつ考えるしかない。


逃げても、

満了日は来る。


工場のラインと同じだ。


目をそらしても、

次の部品は流れてくる。


だったら、

手元を見て一つずつ処理するしかない。

深夜2時の帰り道

その日の帰り道、

配達はしなかった。


工場から寮まで、

まっすぐ帰った。


コンビニにも寄らなかった。


ただ歩きながら、

満了後のことを考えていた。


夜の道は静かだった。


工場の明かりが、

後ろで小さくなっていく。


前には寮がある。


でも、

その先の景色はまだ見えていなかった。


満了日が近づくほど、

不安になった。


それは、

今の生活が嫌だからだけではない。


この生活に慣れてしまった自分が、

次へ進めるのか分からなかったからだ。


それでも、

一つだけ分かっていた。


満了日は終わりではない。


次を考え始める合図だった。


その合図から、

もう逃げないことにした。



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