その日は、配達へ行かなかった。
理由は単純だった。
疲れていた。
夜勤が終わって、
寮へ戻って、
シャワーを浴びた。
いつもなら、
スマホを開く。
配達アプリを見る。
注文が動いているか確認する。
でもその日は、
アプリを開かなかった。
配達バッグは、
部屋の隅に置いたままだった。
床に置かれた黒いバッグを見ながら、
少しだけ罪悪感があった。
行けば稼げる。
でも、
今日は無理だった。
休めばゼロ
フードデリバリーは分かりやすい。
走れば報酬が入る。
走らなければ、
何も入らない。
それだけだ。
会社員の給料のように、
出勤日が決まっているわけではない。
期間工のように、
シフトが組まれているわけでもない。
アプリを開くかどうかは自分次第。
自由だった。
でも、
自由ということは、
休むのも自分の責任だった。
誰も怒らない。
誰も電話してこない。
誰にも迷惑をかけない。
その代わり、
収入も発生しない。
休んだ日は、
本当にゼロだった。
工場の疲れが残っていた
その週は残業が多かった。
夜勤。
残業。
寮へ戻る。
少し寝る。
また工場へ行く。
同じことを繰り返していた。
配達を始めた頃は、
まだ気持ちが勝っていた。
一件でも走れば増える。
給料以外の収入が作れる。
そう思うと、
疲れていてもアプリを開けた。
でも、
体は正直だった。
足が重い。
肩が張る。
目の奥が痛い。
配達へ行こうと思っても、
着替えるところで止まる。
スマホを見て、
注文が鳴っているのを確認して、
それでも動けない。
稼ぎたい気持ちと、
もう休みたい体が、
部屋の中で喧嘩していた。
昨日の報酬を見てしまう
アプリを開いた。
配達するためではない。
昨日の報酬を見るためだった。
昨日は数件走っていた。
大きな金額ではない。
でも、
コンビニ代くらいにはなる。
食費の足しにはなる。
その数字を見ると、
今日も行けば同じくらい増えるかもしれないと思う。
逆に、
今日休めば、
その分だけ増えない。
当たり前のことなのに、
妙に重かった。
配達は、
やった分だけ見える。
だからこそ、
やらなかった日も見える。
今日稼げたかもしれない金額が、
頭の中に残る。
それが地味にきつかった。
休むことが下手だった
期間工になってから、
休むのが下手になっていたと思う。
残業すれば金になる。
夜勤なら手当がつく。
休日に配達すれば、
さらに増える。
働いた分だけ数字が増える生活をしていると、
休む時間が損に見えてくる。
本当は違う。
休まないと、
次の日の仕事に響く。
集中力も落ちる。
ミスも増える。
体調を崩せば、
結局もっと大きく損をする。
頭では分かっている。
でも、
目の前の数千円を捨てるのが怖かった。
休むことにも、
練習が必要だった。
ブログの一円を思い出した
布団に横になりながら、
前に発生したブログの一円を思い出した。
たった一円。
配達一件にもならない。
工場の給料と比べれば、
ほとんど意味がない数字だった。
でも、
あの一円は、
自分が配達していない時間に発生していた。
工場にいる間かもしれない。
寝ている間かもしれない。
過去に書いた記事が、
小さく働いていた。
もちろん、
まだ生活を変えるような金額ではない。
でも、
配達の収入とは種類が違った。
配達は、
今動けば入る金。
ブログは、
過去に動いたものが、
未来に残るかもしれない金。
その違いを、
休んだ日に強く感じた。
即金性は強い
誤解したくない。
フードデリバリーは、
本当に助かった。
今月少し足りない。
給料日まで不安。
休日に少し稼ぎたい。
そういう時、
すぐ動ける副業があるのは強い。
特別な資格もいらない。
店舗へ行き、
商品を受け取り、
届ける。
やることは分かりやすい。
自分のように、
職歴や学歴に自信がない人間でも始められた。
それは大きかった。
だから、
配達を否定する気はない。
むしろ、
最初の副業としてはかなり現実的だと思う。
ただ、
一つだけ忘れてはいけない。
配達は、
自分が止まれば止まる。
それが良いところでもあり、
苦しいところでもあった。
体を売っている感覚
少し大げさかもしれない。
でも、
工場と配達を続けていると、
自分の体力を少しずつお金に変えている感覚があった。
工場では、
時間と体力を給料に変える。
配達では、
移動と集中力を報酬に変える。
悪いことではない。
働くとは、
多かれ少なかれそういうものだと思う。
ただ、
全部がそれだけになると怖い。
体が動く間はいい。
でも、
体調を崩したら。
怪我をしたら。
年齢を重ねたら。
その時、
同じように稼げるのか。
考えると、
少し不安になった。
休んだ日の夜
結局その日は、
配達へ行かなかった。
アプリもオフラインのまま。
バッグも部屋の隅に置いたまま。
収入はゼロ。
でも、
その代わりに眠った。
久しぶりに、
少し長く眠れた。
起きた時、
体が少し軽かった。
口座残高は増えていない。
でも、
減ったものもあった。
疲れだった。
それも大事なことだった。
金を増やすことばかり考えていると、
疲れがどれだけ溜まっているかに気づかなくなる。
休んだことで、
自分の体がどれだけ疲れていたのか分かった。
収入源を分けたいと思った
その夜から、
少し考え方が変わった。
配達をやめるわけではない。
でも、
配達だけに頼るのは違うと思った。
工場の給料。
配達の報酬。
ブログの収益。
どれも小さくてもいい。
種類の違う収入を、
少しずつ作りたかった。
工場は安定している。
配達はすぐに増やせる。
ブログは時間がかかる。
でも、
もし育てば、
自分が休んでいる間にも少し働いてくれるかもしれない。
その可能性に賭けてみたかった。
稼がない日も必要だった
以前の自分なら、
配達へ行かなかった日を失敗だと思っていた。
今日は稼げなかった。
時間を無駄にした。
もっと頑張れたはずだ。
そう考えていた。
でも、
その日は少し違った。
休んだからこそ、
次の日に工場へ行けた。
配達へ行かない夜があったから、
ブログを書く体力も少し残った。
稼がない日は、
負けではない。
続けるために必要な日だった。
そう思えるまでに、
少し時間がかかった。
配達バッグを見ながら
朝方、
目が覚めた。
部屋はまだ暗かった。
配達バッグが、
壁際に置いてある。
昨日は使わなかった。
でも、
それでいいと思った。
必要な時に使えばいい。
走れる日に走ればいい。
無理に毎日背負わなくてもいい。
副業は、
自分を壊すために始めたわけではない。
人生を少しでも楽にするために始めたものだった。
その目的を忘れたら、
本末転倒だと思った。
休んでも残るもの
配達を休めば、
その日の報酬はゼロになる。
これは変わらない。
でも、
ブログの記事は残る。
昨日書いた記事も。
一週間前に書いた記事も。
誰にも読まれていない記事も。
消えずにそこにある。
休んだ日にも、
過去の記事が誰かに読まれるかもしれない。
一円にもならないかもしれない。
でも、
可能性は残っている。
それが、
配達との大きな違いだった。
この違いを知ってから、
ブログを「今すぐ稼ぐ手段」としてだけ見なくなった。
未来の自分を少し助けるために書く。
そう考えるようになった。
深夜2時の帰り道
次の日。
仕事が早く終わった。
体調も悪くなかった。
アプリを開く。
注文が鳴る。
一件だけ走った。
やっぱり、
配達の報酬は分かりやすい。
完了ボタンを押せば、
数字が増える。
それは今でも嬉しい。
ただ、
前とは少し違っていた。
鳴ったら全部受ける。
疲れていても走る。
そういう働き方は、
長く続かない。
配達をする日。
休む日。
ブログを書く日。
それぞれを分ける必要があった。
工場で働きながら、
配達もして、
ブログも育てる。
全部を全力でやるのは無理だった。
だから、
続けるために少し力を抜くことを覚えようと思った。
配達を休んだら、
収入は止まる。
それは事実だ。
でも、
自分まで止まってしまったら、
もっと困る。
稼ぐことより先に、
続けられる生活を作る。
そのことに気づいた夜だった。
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